第32話「情報収集」
「魔物に関する文献を持ってきましたわ〜勇者様〜ん」
「ありがとーそこ置いといてー。次は陰魔法に関する文献をよろしくー」
「かしこまりましたぁ〜ん」
王立図書館の受付嬢に気に入られたのか……
頼んだら読みたい本を持ってきてくれるようになった。
まぁ、来館者が俺とソーレ以外いないから可能なんだろうけど……
「あの、彼女にあんなことさせても良いのですか……?」
「さっき色々と質問に答えたから、その見返り。それにこんだけ本がある中から読みたい本を探してたら、それだけで一日まるっと消費しちまうよ。だったら、専門家に頼んだほうが効率良いだろ?」
「それは確かに……」
「さてと……まずは魔物に関して調べるか……」
俺は山積みになっている本を一冊ずつ調べていく。
「読むスピード……早くないですか?」
「いや、読んでないよ。魔物に関しては絵とかが載ってるやつだけ見たいからな……お、あったあった」
魔物の姿や特徴などが記載されている図鑑だ。こういうのを見たかったんだ。
「ゴブリン……オーク……ど、ドラゴン!?……まじか、ドラゴンいんのかよ……」
やっぱファンタジーだなぁ……
魔法があるから、もしやとは思ったが……魔物はやっぱりこういう――、
「おそらく、それらの魔物はこの大陸にはいませんよ?」
「……え?」
「というより、絶滅してるかもしれません」
「ええ!?……どうして?」
「とある知り合いが……狩りすぎてしまいまして……」
「は?」
「それと、魔王によって残りもおそらく絶滅されたとの見解もされています」
「……待て待て、意味が分からん……魔王は魔物の大群を率いてるんだろ?……それじゃ今この国が戦ってる魔物ってなんだよ?」
「あくまで聞いた話ではありますが……魔物と呼ぶには、極めてなにか生命に対する侮辱を感じるような……そんな怪物だと聞いています……」
「な、なんじゃそりゃ……魔物じゃなくて意味不明な怪物かよ……」
となると、敵に対する情報は今は手に入らなさそうだな……
「なぁ、お前はその怪物と実際に戦った人を知ってるんだろ?その人、紹介してく――」
「ダメです」
「ダメか〜……じゃあ、魔物に関する情報収集はやめだな……次は陰魔法いくぞ」
「切り替え早いですね……」
「いない敵の情報なんて知っても意味ないだろ?」
「陰魔法に関する文献、お持ちしましたぁ〜ん」
「おーナイスタイミング!……あ、魔物の文献読み終えたから下げて良いよ。次は『魔力』に関する文献を持ってきてくれ」
「分かりましたぁ〜ん」
「なぜ魔力について調べるのです?」
「いやさ、魔力ってどうやって回復すんのかなって思ってさ」
「魔力は休んだり、寝たら回復しますよ」
「あ、そうなの……?そりゃ良いこと聞いたな。あ、でも一番知りたいのは、食べたり飲んだりすれば魔力が回復するアイテムの存在だな。お前は心当たりあるか?」
「あるにはありますが……大変貴重なものですよ?」
「おぉ、あるのか!それってどんなものだ?食べ物?飲み物?」
「一応、食べ物に分類されるかと……確か、何かの木の実だった気がします……」
「よし、じゃあその木の実の入手も次の作戦までの目標にしよう」
俺は陰魔法に関する文献に手をつけ始める。
「……なんだか、楽しそうですね……」
「そうか……?…………まぁ、不謹慎かもしれないが正直楽しんでる一面もあるかな。女神に殺されないように立ち回って魔王を倒す、っていう縛りも……意外と悪くないぜ?」
――ゲームみたいでな。
「本当に変わった人ですね……」
その後、陰魔法に関する文献を読み漁ってみたのだが…………
「おいおい……陰魔法でどんな魔法が使えるとか……詳しい内容が全く載ってないぞ……?」
「それはそうですよ。魔法は扱い方を間違えればとんでもない被害が起きます。そんな危ない内容の文献を王立図書館のような誰もが見られる場所に置いてあると思います?」
「…………それを先に言って欲しかったわ」
「魔法の秘匿は当たり前です。一つ一つの魔法が秘伝であり、文献に素直に書かれることはありません。解読されないように暗号化して残すか、一子相伝で後世に残していくしかありません」
「そんなに徹底してるのね……やっぱり魔法は例の薬屋の店長に教えてもらうしかないかぁ……」
「いえ、その必要はありません。私が教えます」
「なんでそんな前のめりなんだよ……じゃあ軽く教えて欲しいことがあるんだけど……」
俺は陰魔法の文献の中で一つだけ気になったことがあった。
「この陰魔法の性質……ってのはなんなんだ……なんか『低下』『奪う』とか色々書いてるけど……」
「魔法にはそれぞれ独自の性質がありまして、特に陰魔法と陽魔法は独特です。陰魔法は様々なものを消したり低下させたり奪ったりする性質を持ちます。逆に陽魔法は増やしたり上昇させたり与えたりする性質を持ちます。まだ解明されてない部分も多いのですが、基本的な性質はそんな感じです」
「なるほどねぇ……陰魔法はデバフ使えて、陽魔法は回復とかバフ使えるってことか……そう考えると、まぁ陰魔法は悪くないな」
「でばふ……?ばふ……?」
「ああ、ごめん……こっちの話……ひとまずは魔法に関してはこの辺にしとくか」
「魔力に関する文献をお持ちしました〜ん」
「はい、ありがと。この陰魔法の文献は下げて良いよ。追加はもういらないかな」
「かしこまりました〜ん」
しかし……魔力に関する文献を読み漁っては見たものの……
「魔力を回復させる食べ物に関しても……どこにも載ってないな……」
「そんな希少なものを文献に残すと乱獲される恐れがあるからじゃないですかね?」
「ダメじゃねーか……魔力に関しても、例の薬屋の店長に聞くかぁ……」
「いえ、私が教え――られませんね……さすがに……」
「まぁ、覚悟してくれ……」
ゴォーン…………ゴォーン…………
どこかで鐘の音が聞こえる。
「もう夕刻のようですね……今日はこの辺で切り上げましょう」
「へぇ……夕刻って鐘で知らせるんだ」
「ええ、夕刻の鐘が鳴れば、全員仕事の手を止め夕食やお風呂に入ったりして就寝します」
「なんて健康的なんでしょう……」
「申し訳ありませぇ〜ん…………勇者様ぁ……当館は閉館しないといけなくてぇ……」
「ああ、分かった。本を色々持ってきてくれてありがと。おかげで時短になったよ」
「しょ、しょんな……光栄ですぅ……また、来てくれますか?」
「うん、また知りたいことあれば来るよ。つか、話し方そんな感じなのね……」
「また来てくださいねぇ〜〜〜!!待ってますからぁ〜〜〜!!」
「ありがとうございました〜〜!」
受付嬢は手を振って送り出してくれた。
うん、出来れば二度と行きたくないな。




