第30話「城下町」
「私は表立って動けませんが、ヤマトくんに有益な情報などが入ってくれば内密にお伝えするくらいはできると思います」
「ダナーさん、何から何まで本当にありがとうございます」
「いえいえ……こんなことくらいしか出来ず情けない限り……薬屋の店長にもよろしく伝えておいてください」
「分かりました!早速行ってみます!」
俺とソーレはダナーさんと別れ、紹介された『世界最強の薬屋』へと向かうために歩を進めた。
にしても、ファンタジーな異世界でゲームのRPGみたいに次の目的地、さらに次の目的地と人伝いに進む感覚……正直楽しい。
「あ、あの……」
はぁ……女神に命を狙われてる、ってクソ仕様がなければ最高なのに……。
「あの……聞いてますか?」
「……ん?……あ、ごめん考え事してた。どうした?」
「やっぱり……その……今から行こうとしてる場所……行くのやめませんか……?」
「……は?」
ソーレは何を言っとるんだ……?
…………あ、そっか――
「さてはお前、俺が魔法を覚えるのを阻止したいんだな?まぁ、女神が勇者に魔法教えるな……って命令がダナーさんにいってるんだ。お前ら女神直属部隊にもその命令がそろそろ下る頃だしな」
「いえ……そういうこととは関係なく、行かない方が良いかと……」
「……?言ってる意味がさっぱり分からん」
「魔法なら、私が秘密で教えるので……どうか薬屋に行くのは、やめてほしいんです……」
「……え?魔法教えてくれんの?……なんで?……女神は教えるなって言ってるのに?」
「確かにそうですが……なんと言えばいいか……んん〜〜〜……」
頭を抱えて不思議な声を出すソーレは初めてだ……
「お前……なんか変だぞ……?大丈夫か?」
「……私もよく分からなくなってきました……」
「は、はぁ……俺もお前のことが分からなくなってきた」
まぁ、ひとまずは例の薬屋に行って魔法を教えてもらおう。
ダナーさんがあれだけ言うんだ……行く価値はあると俺はみたね。
しばらく歩くと先ほど足止めをくらっていた城門が見えてきた。
だが、怒号はもう聞こえず今ならすんなり通れそうだ。
城門はどうやらこの時間は常に開いているようで、そのまま通ろうとしたが、外側を見張っていた門番に声をかけられた。
「城の外に出るのか?それなら外出許可証を見せてくれ」
「外出許可証……ですか?」
そんなもの……持ってないぞ?
……いや、待てよ?
「あの、外出許可証ではないのですが、勇者手形は使えますか?」
「その手形は……これは失礼しました。あの伝説の勇者様が少年だとは思わず……」
毎回、同じような反応をされるな……
勇者は少年のイメージではないのか……俺が勇者っぽく見えないのか……
「それでは行ってらっしゃいませ!」
「ありがとうございます!」
快く送り出してもらい、城下町へと進んでいく。
遠くを見ると、石造りの建物や家などが一面に広がる。
おぉ〜〜……これぞファンタジー!!
新しいフィールドに進むと胸がワクワクするなぁ……
城門から城下町へは坂道……というか太い石造りの橋がかかっており、橋の下を覗いてみると大きな湖が見える。
どうやら、湖が城壁の周りを囲んで敵の侵入を阻むようにできているらしい。
よく出来てるなぁ……
「あ……さっきの門番の人に例の薬屋の場所聞くの忘れた……そういえばお前、薬屋のこと知ってるんだよな?場所って知らないか?」
「し、知りません……」
「お前……意外と嘘下手なのか?」
ソーレは顔を横にプイッとして、目を合わせないようにしている……分かりやすなオイ。
「ま、その辺の街の人に聞いてみるか……」
街中を探索するのも醍醐味だし、薬屋探すついでに色々見て回ろう。
しかし、街中を進んでみるものの…………
「全然……人がいねーじゃねーか……なんでだ?」
「この時間は皆、仕事に出ているからでしょうね。この首都から海は近いので男性は漁に出ていたり、女性は海藻や貝などを採ったりしているのかと……」
「でも、子供とかはさすがに街中とかで遊んでても良いんじゃないか……?」
「子供も薬草を取りに行ったり、釣りをしたりなど大人の手伝いに出ているんだと思いますよ」
「この世界の子供……しっかりし過ぎだろ……」
「食糧難ですからね……国民も一丸となって頑張っているのです」
「……なるほどね」
その日食べていくだけでも精一杯……街が活気を取り戻すためにも土地の奪還は必須ってことか……
「なぁ、やっぱり勿体ぶらずに薬屋へ案内してくれよ。国民が頑張ってるのに勇者がぶらぶらしてるのは違うだろ?」
「……………………」
ソーレは悩みに悩み抜いた挙句……
「分かりました……ただ、どうなっても知りませんからね……」
薬屋へ案内してくれる決心がついたようだ。
なんでそんな考え込むか意味が分からないが……
ソーレの道案内で進むと、こぢんまりとした一軒の店が見えてきた――、いや……
『世界最強の薬屋 ヴィルトゥ=オーソ』
主張がデカすぎる物凄く大きな看板が店の上にくっ付いていた……
「もしかして……ここ……?」
「……はい」
「名前からしてヤバそうだとは思ってたけど……見た目もヤバいな……」
「うッ……!」
「ど、どうした……?大丈夫か……?」
顔を隠していたので表情までは分からないが……震えてるのか……?
「ほ、本気で大丈夫か……?もしかして、この店になんか因縁とか……?な、なんか悪いことしたな……」
「い、いえ……大丈夫です……」
「ひとまず、俺は中に入るけど、無理して入らなくて良いからな……?」
店に入ろうと高級そうな入り口の扉へと向かうが…………
「あ、あれ……?『準備中』……?」
準備中と書かれた板が扉にかけてあった。
一応、店の窓を覗き見ても、中は真っ暗で人の気配もしない……。
「あ、あのぉ〜〜〜〜誰かいませんか〜〜〜〜?」
…………反応もない。
「外出中かな……いまいち思い通りにいかないなぁ……」
「ふぅ〜〜……」
「あれ、お前もしかして今ホッとしてない?」
「さて、次はどこに行きますか?」
「切り替え早いな……まぁ店長が戻ってくるまで待っても良いけども……」
「次はどこにいきますか?」
「聞けよ話……」
だが、時間が惜しいな……
「やっぱり今日は当初の予定通り、王立図書館で情報収集するかぁ」
「それが良いですね!そうしましょう!」
「どうしても嫌なのね……」




