第29話「協力者」
「お前って……綺麗だよな……美しい。だからさ……ほんの少しだけ……」
「ダメです」
「あの女のことなんて忘れてさ……俺だけを見てくれないかな?」
「ダメです」
「魔王は必ず俺が倒す!……だから、そのためにも……」
「ダメなものはダメです」
「あのぅ、そこをなんとかぁ〜……今、陰魔法を教えていただけるともれなく特典で――」
「気持ち悪いですよ」
「っち……ダメか……」
ソーレに陰魔法のご教授を願うも女神が『魔法教えちゃダメです』と謎の指示を出したため、事態は一気に難航してしまった。
「参ったなぁ……あの、ダナーさん?魔法って自力で覚えるのって可能なんですか?」
「可能ではありますが……時間が相当かかるかと……」
「どれくらいですか?」
「基本的に一つの属性をマスターするのに平均で十年はかかるのですが、あくまでキチンとした指導者がいての十年なので……独学となるとさらに時間がかかるかと……」
「じゅ、十年ッ!?」
魔法って相当難しいのか……
念じたらパパッと使える、みたいな感じじゃないんだな……
「それにしても、女神から『魔法を教えるな』って言われてるのに、ダナーさんは色々教えてくれますよね?……大丈夫なんですか?」
「魔法を教えるな、というのは『魔法が使えるように直接指導はするな』という意味で私は解釈しています。ですので、魔法知識くらいであれば教えても問題ないかと思ってますよ」
おそらくダナーさんは空気を読んでくれている。
ダナーさんも女神の指示に納得はしてないようだったし、ソーレの前でこの話をしたということは『魔法知識くらいなら俺に教えても問題ないと思いますよ?』……とソーレに言ってくれたようなものだ。
「ダナーさん……ありがとうございます!」
「いえいえ……ちなみにこれは好奇心からの質問なのですが……なぜヤマトくんは魔法が使えるようになりたいのですか?」
「そうですね……僕はどういうわけか女神に命を狙われているんです。そして今度の作戦中に事故と見せかけて殺されるかもしれません。僕が使える固有スキルだけでは、これを生き残るのは厳しいと思い、少しでも生存率を上げるため魔法が使えるようになっておきたい……といった理由ですね」
……………………
…………
……
あれ?
なんか場が凍りついてないか?
ダナーさんもそうだが……ソーレまで俺のことを見ながら驚いている。
「そ、それは本当……なのですか?憶測などではなく……」
「話すと長いので割愛しますが、ほぼ100%間違いないかと」
ソーレが俺を殺そうとした……とかダナーさんに詳しく話すとソーレの印象が悪くなるかもと思ったので、一応話さないでおこう。
「ふむ……」
ダナーさんは何やら考え事をしている。
「なるほど……なぜ勇者様に魔法を教えないようにしているのか……その理由の一端が見えた気がします。しかし、なぜヤマトくんは殺されそうになっているのですか?」
「理由は僕も全てを把握しているわけではないので推測でしか話せませんが、僕の固有スキルは『触れた物質を操作できる能力』でして、おそらくこの能力を『触れた人を操作できる能力』に成長されるのが怖いのかと」
「ふ、触れた人を操作できる能力……?……それは……確かに凄まじい力ですね」
「悪用すれば魔王に匹敵……もしくはそれ以上の被害が及ぶ……という理由で警戒し、殺そうとした……ならまだ分かるのですが、女神の反応から見るに別の理由で警戒されてるようにも見えるんですよね」
「べ、別の理由ですか……?」
「そもそも、触れた物質や人を操作できるようになるなら、魔王ですら触れたら倒せるわけじゃないですか。普通に魔王を討伐するのが目的であれば女神は僕の力になってくれるはずなんです。でも、女神はそうは思わなかった……逆に殺そうとしてるってことは、魔王討伐よりも別の目的があって、その目的に僕が邪魔……と考えられるかなと」
「…………な、なんと…………」
ダナーさんは絶句していた。そして、ソーレもまた俺のことを……なぜか観察するように見ている?……気がする。
「ただ、あくまで推測ですよ?……僕はこう思ってるから女神に殺されないために魔法を覚えたい、と知ってほしいだけです。あ、このことは女神には内緒でお願いします」
「わ、分かりました……しかし、なぜそのようなことを私に話したのですか?……もしかしたら私も女神様と通じているかもしれないじゃないですか」
「ん〜〜……この場にいる二人に僕の考えを話して、女神に知れたとしても女神のやることは変わらないと思います。それならいっそ僕の考えを話すことで一人でも多くの協力者を得るために動くほうが、今後の生存率と魔王討伐の確率を上げられると思ったから……ですかね」
まぁ、厳密に言えばもっと別の目的もある。
それは噂でもなんでも女神に俺が暗躍していると知れて、何かしらの新しい動きがあったら……その内容や傾向から推測して――
女神が何の目的で動いているかを知ること。
目的が分かれば、和解の手も打てるし対策も取れる。
どんな手段を使ってでも自分の生存率は上げておきたい。
「ヤマトくん……君という存在が恐ろしく感じます……。最初見た時は歳相応の少年に思えたのですが……とんでもない――、」
「あっ、ちょっと待ってください!警戒はしないでくださいね!?……僕は決してあなたたちの敵ではありませんから!」
「それはもちろん分かっています。ヤマトくんは真剣にこの国を……世界を救おうとしている……いえ、救える勇者様です。ですので私は――」
ダナーさんは俺の両手を優しく力強く握りしめる。
「――是非、協力させてください」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ、もちろんです。ただ、私の立場ではヤマトくんに魔法を教えることはできません」
「そうですか……」
「ですが、ヤマトくんに魔法を教えられる人なら知っています」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ。城下町にある『世界最強の薬屋』という場所へ行ってみなさい」
「ダナー団長!!……それはっ……!」
今まで喋っていなかったソーレが反応する。
いや、というかそれより……
「…………えーっと……なんの薬屋……ですか?」
「『世界最強の薬屋』です」
「え……それって店の名前……なんですか?」
「はい」
この目……マジだ。
嘘なんてついてない100%マジな目だ。
なんだよ……『世界最強の薬屋』って……イカれてんのか……




