第28話「魔法の適正」
ソーレの案内で俺は魔導兵団の仕事場とやらへ進んでいた。
城壁の内側にある訓練場から少し奥のほうへと歩いていくと、何やら金のかかってそうな建物が見えてくる。その横には何やら植物などを栽培しているのだろうか……ちょっとした畑みたいなものがある。
それにしても、この建物に似たものを訓練場のすぐ近くでも見たが、あれはもしかして一般の兵団用の建物なのか?
それと比べてもさすがにこの建物は金がかかってる気がする。装飾やらなんやら……だが自然といやらしさは感じない。
「ここが魔導兵団の仕事場ってやつか?」
「はい、魔導兵団に所属する魔法士は基本的にはここに出勤して様々な仕事を行なっております」
「へぇ〜、魔法士ねぇ〜……やっぱ戦える人とかいるの?」
「いえ、現在の魔導兵団には戦えるものはおらず、基本的にはインフラ周りの魔法士のみが残っております」
「ん?……『兵団』なのに戦えるものがいないって……どういうこと?」
「入りますよ」
ソーレは俺の質問を無視して、建物の扉を開ける。
建物の中には、様々な本や薬品、魔法に関連してそうな動物のしっぽ?……様々な石などが並んでいる。
中央には大きなテーブルがあり、あそこで立って会議などをするのだろうか?
テーブルの上には……この首都の地図だろうか?……様々なところに丸が書かれており、おそらく何か仕事に関係があるのだろう。
奥の方にはお偉いさんが座ってそうな、装飾が物凄い仕事用の机が置かれていたが、どうやら空席のようだ。
「あれ……誰もいなくないか?」
「そのようですね。どうやら今はインフラ周りで各地に出かけているのかもしれません」
「えーっと……それじゃあ例の、魔法適正を知ることのできる石って貸してもらえないってこと?」
「困りましたね」
「うん、困ったな」
とりあえず、人が来るまで待つしかなさそうだし、俺は少し置かれているものにも興味があったので、棚にあるものを色々と眺めることにした。
「ここに置かれてる本って、魔法に関するものとかあるかな?」
「あるとは思いますが……どれも高度な魔法の論文など、専門的なものばかりですので今のあなたには理解できないかと」
「ふ〜ん……この並んでる薬品って何に使うやつなの?」
「私も詳しくは分かりませんが、おそらく魔法を液体に付与する実験に使ってるものではないかと」
「へぇ〜そんなこともできるのか……確かに日付みたいなのが書いてるな」
「ちなみに、この……なんかの生き物のしっぽみたいなのってなんだ……?」
「過去に存在した魔物の素材ですかね……調合して薬などにするそうです」
「うぇ……こんなものを薬として飲むのか……なんか変なドロっとしたやつもあるし……色んな素材があるんだな」
「ここは魔法や薬の研究機関でもありますからね」
「なるほどねぇ〜」
「なんか、沢山の石がカゴの中に入ってるけど、この中に例の石ってあるのかな?」
「それはまた違う石ですね……最近発掘された希少な石が未鑑定のまま置かれてるだけかと思います。おそらく虹色石があるのは、倉庫だと思うのですが、倉庫の鍵はここの魔導兵団長が持っているので……」
「その人が来るまで待つしかないか……」
「いつもはこの時間でもいるはずなんですが……おかしいですね……」
そんなことを話していると入り口の扉が開いた。
「おや……?誰かと思えば、ソーレちゃんじゃないか」
「お久しぶりです、ダナー団長。お待ちしていました」
ダナー団長と呼ばれた男性は、ほんわりとした優しいおじさんという印象で綺麗に整えられた黒のローブを着こなしている。
「何か用があったのかい?待たせて悪かったね。先ほどまで女神様に呼び出されていたものでね……それでそちらの少年は?」
「こちらは召喚された勇者様の一人で――」
「は、はじめまして!僕は手繰 大和と申します!」
「これはこれは……君が例の勇者様でしたか。私は『ダナー=サンクリット』と申します。えーっと……テグリ=ヤマトさんは……家名がヤマトなんですか?……異世界の方の名前は不思議ですね、興味があります」
「家名ですか……?……あ、もしかしてこの世界は先に名前がきて、その後に家名ってやつが来る感じなんですかね?」
「そうですね、私の名前はダナーで家名がサンクリットになります」
「とすると……僕の場合は逆になりますね。この世界で言うなら僕の名前は『ヤマト=テグリ』になるかと」
「ほうほう、なるほど……先に家名を名乗るのが勇者様の世界の常識なのですね……興味深いです……」
「は、はぁ……」
ダナー団長は紳士的には見えるが、所々に研究者のような……あ、そこ気にするんだ。みたいな探究心を感じる。
「それで、二人はここに何の用で来られたのですか?」
「彼はどうやら魔法に興味があるようでして、まずは適正の判断をしに虹色石を貸していただきたく参りました」
「ほうほう、魔法に興味がおありで……分かりました、少々お待ちくださいね」
そう言うとダナー団長は、奥の方にある扉の鍵を開け、握り拳くらいの黒い石を持ってきてくれた。
「こちらが虹色石です」
「これが虹色石……なんか想像してたより大分……というか真っ黒ですね」
「ははっ、最初は誰もがそのような反応をしますね」
ダナー団長は虹色石を手渡してきた。
「この虹色石に自身の魔力を注ぐと属性に合った色の光が表れますので、それで適正を判断することができます」
「魔力を注ぐって……どうすればいいんですか?」
「ん〜〜……」
ダナー団長は何やら困った表情になった。
あれ……もしかして『それも分からないの?』的な感じ……?
「困りました……これは教えて良いものなのでしょうか……?」
「え……?どういうことですか?」
「それが、先ほど女神様に『勇者様には魔法を教えるな』といった内容の指示を受けまして……」
は……?
「ど、どういう理由で教えるな、と?」
「どうやら……『勇者様には固有スキルという魔法より優れた能力をすでに持っているから必要ない』とのことでして……」
「いやいや……固有スキルにも限界はありますよ……回復魔法とか使えたら便利じゃないですか」
「私も魔法は扱えないよりも扱えたほうが魔王討伐には良いのではないか?と進言はしたのですが……聞き入れてもらえずでして」
あのクソ女神……どこまで俺の邪魔を……
「ですので、魔法を教えることはできないのです……」
「……自力でやるしかないか……」
俺は虹色石に魔力が注がれるイメージをしてみる。
魔力って体内に流れてる的な感じなのかな……
漫画とかでよくある……こう……なんか……気を……練る……みたいな……
「うんともすんともしない……」
やはり、相当修行しないといけないのか……?
それとも、もしかして……俺には適正がないとか……?
「くっ!!こうなったら……魔力魔力ま〜〜〜りょ〜く魔力魔力まりょ〜くんまりょまりょ――」
「なんですかその変な踊りと呪文は……」
「ほほう、不思議な踊りですな……何か意味があるのでしょうか」
「ないと思いますよ」
「くっ!!ダメか……何か……ヒントでもあれば………………チラッ」
「……………………」
「誰か……ちょっぴりでもヒントとかくれたら………………チラッ」
「教えませんよ」
「申し訳ありませんが……女神様の指示ですので……」
慈悲はないのか慈悲はッ!!
まぁ、そんな上手くはいかないか……
魔法も固有スキルみたいに自然とできたら良いんだけどな……
……………………
…………
……
固有スキル?
――俺は試しにコントローラーを出してみた。
「おぉ!なんと珍妙なッ!!……それは一体……」
コントローラーを出現させている時、俺は魔力を消費している。
ということは、魔力が漏れ出てる状態……あるいは魔力が使える状態になってるんじゃないか?
もしも、俺の仮説が正しければ……
――手に持っていた虹色石は『紫色』に光り輝いていた。
「ビンゴ!!」
「たった数分で虹色石を光らせるとはッ!!これが勇者様の実力!!」
「この紫色の光って、どの属性に該当しますか?」
「これは『陰』ですな。他の適正もあれば、同時に属性に合った光も発するのですが……」
「え……?じゃあ、回復魔法が使える陽魔法は使えないと……?」
「……その通りです……陰魔法しか使えません」
「……………………」
俺はこれ以上、魔力を消費しないためにコントローラーを消す。
すると虹色石からも光が失われ、元の黒い石に戻った。
魔法が使えるってことが分かったのは嬉しい……
だが、欲しかった適正じゃない……
ソシャゲのピックアップガチャで
狙いのキャラをゲットしようとしたら
通常ガチャでも引けるSSRを引いた時のような……そんな感情だ。
「そ、そんなに落ち込まないでください……陰魔法が使える魔法士は滅多にいませんし相当希少な属性ですよ?」
「滅多にいない?……希少な属性……?」
ぴくぴく……
俺は思わず反応してしまう。
「よしッ!陰魔法を極めよう!陰魔法は最強!!陰魔法はこの世界にて最強!!」
「そうですそうです!その意気ですよ!」
「単純な人ですね……」
「そういえば、ソーレちゃんも陰魔法が使えましたよね?」
「え……?お前も陰魔法の適正あんの?」
「はい、私も陰魔法つかえますよ」
「これは嬉しい誤算だ!陰魔法で良かったぁ〜!早速、修行するぞ!」
「教えませんよ?……女神様が魔法を勇者様に教えるなとダナー団長に言ったなら、私が教えるわけないじゃないですか」
「…………マジか」
おのれクソ女神……




