第27話「魔物と魔法」
来た道を少し戻って、城壁の壁を背に俺とソーレは座っていた。
城壁は大きな円を描くように作られており、今座っている場所も一応、視界には城門が見える位置だ。
「それにしても、一分一秒も惜しい時にとんだ時間のロスだぜ……なんなんださっきの怒鳴り声は……」
「…………申し訳ありません」
「……え?なんで謝るの?」
ソーレは顔をうつむかせて何やらボソボソ言ってるが……
「どうした……?大丈夫か?体調悪いなら早めに保健室に行こうな?」
「『ほけんしつ』ってなんですか……」
「はぁ……ひとまず、ほとぼりが冷めるまでここで待つか」
「ちなみに、王立図書館に行って何を調べる予定なんですか?」
「んーそうだなぁ……ひとまず『魔物』と『魔法』が最優先かな」
「なぜ、その二つなんですか?」
「んーと、まず『魔物』だけど、一週間後の作戦で実際に戦う相手のことは知っておきたいかな。俺の固有スキルが通用するのか、どうやって戦うかの戦略が立てられるだろ?」
「確かに……」
「あとは『魔法』だけど、これは少しでも戦力を上げるために覚えられるなら覚えておきたい。実際、俺はソーレに魔法を使われて負けてるし、試合後に受けた回復魔法なんか覚えられたら、生存率も上がるだろ?」
「なるほど……」
「ちなみに、この待ち時間ももったいないし、ソーレが知ってる範囲で教えてほしいだが、良いか?」
「私に答えられる範囲でしたら」
女神は俺が成長したり情報を得るのは嫌がるはずだ。
だから、ソーレに聞いても教えてくれないかもしれないが……一応聞いてみるに越したことはない。
「ソーレって兵士なんだろ?だったら魔物と戦ったことあるんじゃないか?どんな感じだったか教えてくれよ」
「私は最近、正式に兵士となったので、魔物とは戦ったことがないんです」
「まーじか……てか俺、兵士になりたての女にボロ負けしたのかよ……」
「といっても私は3年間の兵士見習いをしてましたので、全くの素人ではないですよ?……ですので元気だしてください」
「んー、慰めになってるのか分からんなそれ……」
「ただ、知り合いの話では、魔物は個としてはそこまで強くないけれど、大群で巧みな連携をして襲ってくるので厄介……らしいです」
「ほう……」
あれ……意外と素直に教えてくれるな……
嘘か本当かは分からんが……
「大群で襲ってくる魔物……しかも連携してくるって……指揮官みたいな魔物もいるってことかな……」
「いえ、指揮をする魔物はいなかったみたいです。ただ、何かの意志を受けたかのように連携して動いてくるので、まるで人間と戦っているような感じらしいです」
「な、なんだそれ…………指揮を出す魔物もおらず、連携をとってくる魔物の大群か……」
「魔物は基本的に知能がほとんどなく、あったとしても話に聞くほどの大群が連携して人間のように動けるとは想像できません」
「ほうほう……つーことは、もしかしたら魔王が直接操ってたりしてな?」
し〜〜〜〜〜〜ん…………
あれ……ソーレの反応がない……
なぜ、そんなポカンとしてるんだ?
「俺、なんか変なこと言った?」
「あ……いえ……私の知り合いも同じような仮説を立ててまして……ちょっと驚きました」
「へぇ〜……その知り合いは魔物と実際に戦ったんだよな……その人もし良かったら紹介してくれないか?話を聞いてみた――」
「絶対ダメです」
「……え?」
なんでそんな睨みつけてくんの……
怖いよ……
「わ、分かったよ……でもまぁ、ダメってことは会えるってことで……死んではいないんだな……そりゃ良かった……」
「……………………」
「それじゃ、魔法について教えてくれよ。ソーレも魔法を使えるんだろ?」
以前の試合にて、ソーレが二人になったり
背後に突然ソーレが現れたり……
あれは魔法とかじゃないと説明できないからな。
「それは……ダメですね」
「え?どうして?」
「私の魔法はタネが明かされるとほとんど意味がありません。ですので、あなたには絶対に教えられません」
「あーそうだよね。俺に魔法教えちゃうと対策されて暗殺できないもんね〜はいはい分かりましたよ〜」
「別にそんなことは……まぁ、あるかもしれません……」
「いやあるんかい」
「ですが、基本的に自分の魔法を他人に喋るバカはいません。自分の手のうちを明かすのは自殺に等しい行為だと教えられましたから」
「あ〜……それは確かにな……聞いた俺が悪かった、すまん」
「いえいえ……ただ、基本的な魔法についての知識なら教えられます」
「え?マジで!?知りたい知りたい教えて!」
それが知れるだけでもこっちとしてはありがたい。
「まず、魔法には属性があり『地・水・火・風・陰・陽』の計六種が存在します」
「ほうほう……属性ね。回復魔法はそのどれに当たるんだ?」
「回復魔法は『陽』ですね。『陽』は与える・増やすなどの性質があるので、それらを応用して自身の魔力を相手に与えて回復させる、という原理のようです」
「なるほどな……俺も回復魔法って使えるかな?」
「それは分かりません。というのも、魔法を使うにはそもそも属性の『適正』がないといけませんから」
「属性の適正……?ってことは、俺は『陽』の適正を持ってないと回復魔法使えないってこと?」
「そういうことになります」
「適正を調べるにはどうすれば良い?」
「『虹色石』と呼ばれる石に魔力を流し込むと、その石が属性に合った色合いに光りますので、それで判別できます」
「なるほど……その石はどこにある?」
「魔導兵団が管理していますので、そこにあるかと」
「じゃあ、魔導兵団がいる場所にも行かないとだな……」
「ちなみに、属性の適正って生まれつき備わっているものか?それとも後天的に獲得できるものか?」
「生まれつきですね。後天的に適正が増えたという事例は聞いたことがありません」
「まじかぁ〜……俺、陽魔法の適正……あると良いなぁ……」
「あると良いですね。ただ適正が無い場合もありますよ」
「え……?適正ない人って存在するの?」
「ほとんどの人は適正を持っていませんよ」
「じゃあ……適正ない人は魔法使えないんだ……」
「そういうことになります」
まじか……ということはワンチャン俺も魔法の適正なしパターンもあるのか……?
いや……でも俺勇者だぜ?さすがにあるんじゃないかな……
「どうしたんですか?顔色が悪いですよ?」
「い、いやぁ〜……適正あるか気になりまして……ええ……あったらいいなぁ〜……ないと困るなぁ〜……」
「それでしたら、魔導兵団のところへ行って適正があるか確認してみますか?」
「え!?いいの!?」
「多分、大丈夫だと思いますよ」
俺は一応、城門のほうを見ると、まだ問題は片付いていないようだった。
あ……あれは、王様?
王様が直接、城門にいる輩を宥めに行ってるのか?
……まだ城外へ出るには時間がかかりそうだ。
「よし、案内してくれ!まだ城外には出られそうにないし、時間ももったいないからな!」
「うっ……申し訳ありません……」
「え……?」
「さ、行きましょう。魔導兵団の仕事場に案内します」
「あぁ……うん、ありがとう……」
やけに親切に色々してくれるな……
あれ、もしかしてソーレって良い奴……?
俺はソーレに付いていき、魔法の適正があるかを診てもらうことにした。




