第26話「お礼」
「へぇ〜……思ってたより良い感じの部屋だな」
ソーレに案内された部屋には二段ベッドが左右に二つずつ置かれ、計八人は寝られるようで、奥には窓から差し込む光に照らされた机と椅子、机の上にはテーブルランプのようなものが飾られていた。物置は兵士一人につき一つは用意されているようで、入り口の手前に四人分、奥側に四人分とベッドの横にそれぞれ簡易な棚が用意されている。
「寮母さんが綺麗にしてくださったのでしょう……埃ひとつありませんね」
「丁寧な仕事をしてくれるな……ありがてぇ」
俺は抱えていた荷物を棚に置いて、ベッドの柔らかさをチェックをしてみる。
おぉ……悪くない柔らかさ……これなら普通に寝られそうだ。
さーてと……こっからどうするか……
机の前にある椅子に座りながら、今後の方針を考えてみる……が……
……………………
…………
……
「あのさ、いつまでいるの……君……?」
ソーレは案内を終えたはずなのに
この部屋から一向に出る気配がない。
「もう案内済んだよね?……まさかこの密室で俺を殺そうとしてるとか……?」
今、この狭い空間で剣を抜かれでもしたら
まず確実に殺されるだろうな。
近くにまともに操れるものもないし。
「でも、今はやめておいたほうが良いな。今俺を殺せば、俺の責任者……女神のお気に入り勇者の岡守先生が黙っちゃいないぜ……?」
岡守先生を盾にする。
効果があるかは微妙だが……
「そんなことしませんよ……私はあなたの護衛として側にいるようにと女神から指示されています」
「…………は?」
「コモン勇者は一般人と変わらないほど弱いので守ってやれ、と言われました」
「あのクソ女神……」
護衛ってのは嘘で、本当の目的は『監視』……
さらに怪しい動きがあれば『即暗殺OK』の指示も受けてるだろうな……
仕方ない……ピンチはチャンスってよく言うし
こうなったら今の状況をとことん利用してやる。
……っと、その前に……
俺は立ち上がると、おもむろに服を脱ぎ始めた。
「なぜ突然、服を……?」
「見て分からない……?」
俺は学校の制服を一枚ずつ丁寧に脱いでいく。
「そういうことですか……」
「分かってもらえた……?」
俺はベルトを抜き取りズボンに手をかける。
「早くしてくんないかな?」
「……分かりました……『お礼』はあの時『おあいこ』と言ってくれたので無いと思っていましたが、私の考えが甘かったようですね……」
そう言うと、ソーレは白銀のローブの紐を解き、着込んでいた軽装備を脱ごうとした――、
「え……?……え、え、え?……何してんの?」
「……え?」
「いや、俺今から着替えるからさ、早く出てって欲しいんだけど」
「………………え?」
「……は?……どういうこと?」
……………………
…………
……
「え……?……もしかしてお前………………ごふっ!!?」
俺は見えない速度の腹パンを受けて悶絶している間にソーレは部屋から出て行った……
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「さっきは悪かったって……まさか本気にするとは思ってなかったからさ……」
「あなたという人間を過大評価し過ぎていたようです……」
「あの時『お礼』をねだったのは、そういうことをしても良いと了承させて、それよりも軽い要求をして確実に情報を聞き出そうとしてただけだってば……」
俺は寮母さんからいただいた服や靴に着替えた後、ソーレのご機嫌を直そうと必死だった。
まぁ、怒ってどっかに行ってくれてたら良かったのに……とも思ったが、律儀に扉の前で待ってやがった……。まぁ女神の指示もあるから仕方ないか。
「あなたはもっと、人とはどういうものかを知るべきでは?」
「はい……反省してます……ごめんなさい……」
俺は渋々、頭を下げた……。
ソーレに腹パンされたところがまだ痛い……
食べたものが全部出るかと思った……
「はぁ……分かりました。先ほどお腹を殴ったので『おあいこ』にしましょう……」
「ありがとうございます……」
なんか、立場が逆になった気がする……。
切り替えろ……俺……
「それで、服も着替えて、これから何をするおつもりですか?」
「ああ、まずは情報収集かな……なぁ、この国って図書館みたいな本が沢山ある施設とかってあるか?」
「『王立図書館』ならありますよ」
「お!良いね!……じゃあ案内してくれよ」
「分かりました……付いてきてください」
「サンキュ〜」
ソーレにしばらく付いて行くと大きな城門が見えてきた。
「あれって、城とは反対ってことは城外に出られる門か?」
「そうですね。王立図書館は国民の人が誰でも使えるようにと、城下町のところに建設されているんです」
「へぇ〜……やっぱしっかりしてるなこの国」
「ところで……今までずっと離れたところから付いてきてたのに、なぜ今は隣にいるんですか?」
「え……?だって門番の人だってもう見えるしぃ〜、ここじゃ殺せないでしょぉ〜?」
「なるほど……なぜそんな変な顔を向けてくるのですか?」
「なんででしょうねぇ〜〜〜?」
精一杯、表情筋を使って反抗してやる!
そんなことをしていると――、
「早くここを通さんかい!!――勇者出てこいやァ!!今すぐぶっ殺してやるぞォゴラァ――!!」
とんでもない怒号が門の外側から聞こえてくる。
「な、なんの騒ぎだ……?」
俺は何事かと思い門へと近づこうとしたが、後ろから腕をガシッと掴まれた。
「ええ……?な、なんだよ?」
「…………今、門に近付くのは危険です……おそらく……」
「え……?なんかヤバいの?」
「はい……相当マズいので、ほとぼりが収まるまで離れていましょう……」
ただならぬソーレの雰囲気に俺は従う。
…………この国も一枚岩ではないのかもしれない。




