第24話「危険因子」
女神の発言に周りの奴らは首を傾げていたが
これは俺にだけ分かるメッセージ……
俺が首都を乗っ取る……
なんてのはもちろん冗談で、
本命は『俺を必ず中央拠点奪還作戦へと連れて行き――事故と見せかけて殺す』という意思表明。
思わずニヤけてしまう。
対応が露骨過ぎて嬉しい。
『コモン』ランクに選ばれる本当の意図……それは『危険因子』であること。
理由はまだ不明だが、女神にとって何かしらの邪魔になるのだろう。
だから、十分な支援も与えず、レベルも上げさせず……
真っ当そうな理由を付けてコモン勇者を激戦区へと放り込み……始末する。
……とても良い考えだと思います。
俺でもそうするね。
そして、ここまで警戒してくれるってことは……
俺の固有スキルはレベルが上がれば
『人を操る能力』へと進化する信憑性が上がってくる。
本当に嬉しいねぇ……
「手繰くん……どうかしましたか?」
「あ、いえいえ……女神様も冗談を言うんだなぁ、と」
すでに戦いは始まっている……
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
明日から本格的に『レア』以上の勇者は戦闘訓練が始まることもあり、今日はもう各々の部屋に行って休んでも良い……ということになった。
ランク毎に与えられる部屋も違うらしく、レジェンダリーから順番に案内されていくそうだ……
どっかの格付けチェックみたいな扱いの違いだ。
「それでは手繰……また一週間後に会おう。安心しろ、我はこの一週間でさらなる封印を解放し、作戦を遂行してやるからな」
「うん、ありがとうクリムゾン!頑張って!」
クリムゾンを見送り、その後もランク毎に順番に講堂を出ていく。
『アンコモン』の連中も案内され、俺ともう一人のコモンだけが講堂に残された。
……………………
…………
……
遅い。
さっきまでスムーズに案内されていたはずなのに
一向に案内される気配がない。
…………もしかして、忘れられてないよな?
俺は暇だったので、もう一人のコモン判定を受けた女をチラ見する。
『橘 日和』
見た目は……まぁ配慮して表現するなら
大変ふくよかであり、ハムスターのように可愛らしい身長と体型をしていらっしゃる。
髪はちゃんとケアしてるんだろう……
艶のある短くも長くもない黒髪をしている。
性格はおとなしく静かなので……
いじめの標的になっていた。
中学三年になってから同じクラスになったが
噂によると今までも
相当酷いいじめを受けていたそうだ。
だが、岡守先生の陰ながらの活躍により
大分マシにはなったらしい。
その体験が影響してなのか……
固有スキルはえげつない内容だった。
『復讐者:自身が受けたあらゆるダメージや苦痛を相手に跳ね返すことができる』
スキルが発表された時
俺含め、周りの奴らも戦慄していた。
正直、戦闘面においては全勇者の中で一番最強と言えるほどヤバいカウンター能力。
だが、女神の評価は――
『この固有スキルは使えないですね。死なない程度のダメージであれば跳ね返せるかもしれませんが、即死した場合……能力を発動できない可能性が高いです。スキルの説明文から察するに自動発動ではなく任意発動と考えられますので、やはり即死攻撃には弱そうですね。魔王の全ての攻撃が即死級の攻撃ですので、跳ね返す暇も与えてくれないでしょう……それに彼女はどうやら戦闘に向いている性格にも見えません。そのため、残念ですが……あなたの勇者ランクは『コモン』となります』
かなり辛口だった。
ちなみに俺がコモン判定をくらった時はクラスの大半が爆笑していたが、橘のコモン判定には誰も笑えなかった。
魔王には通用しないが、もし自分に使われたら恐ろしいスキル持ち……そりゃ誰もいじれない。
もし橘がカスタムスキルを付けてスキルを成長させたりなんかしたら、様々なデメリットを打ち消して最強のレジェンダリー勇者にだってなれそうだが……それをさせないコモンにしたってことは、おそらく女神は橘もあわよくば殺すか封殺しようとするかもしれない。
『コモン』判定をされたということは
危険因子と認定されたということ。
そして、危険因子の認定は
死刑宣告をされたも同じ。
正直、俺は自分が殺されないようにするのが手一杯だ……
橘には申し訳ないが……何かあっても助けてやれない……まぁ……スキル的に死ぬことはないかもしれないし、多分大丈夫だろう……
そんなことを考えていると
講堂に二人の女神直属部隊の兵士が入ってきた。
フードで相変わらず顔が見えない……。
一人は橘のほうに近寄り
もう一人は俺の方へ。
ようやく部屋へと案内されるんだろう……
「先ほどぶりですね……勇者様」
「……その声……まさか……」
フードを取った女は――
試合で俺を殺そうとしたソーレだった。




