第23話「格差」
「手繰さん、こちらがあなたの勇者手形です。どうか、よろしくお願いいたします」
王様から受け取ったのは真っ白な勇者手形だった。
「手繰のカードは……白か……まぁ気にするな。我が1日も早くこの世界を救ってやるからな」
席に戻ると、隣のクリムゾンが励ましてくる。
そんなクリムゾンの手には黄金の勇者手形が握られていた。
どうやら、ランクによって勇者手形の色などが違うらしい。
周りを見渡してみても――、
レジェンダリーは黄金
エピックは紫
レアは青
アンコモンは緑
そして……コモンは白だ。
白の勇者手形……
表面には大きく紋章が刻まれており、その下にはこの世界の言語で『コモン勇者手形』と書かれている。
この世界の言語……本来なら読めない文字なのになぜか読めてしまうのは……おそらく異世界へ来た時の恩恵の一つなんだろう。
裏面には自分の名前『手繰 大和』
その下には『メイスーン王国はこの者を勇者と認め援助することを約束する』と書かれている。
へ〜……この世界の言語で俺の名前を書くとこんな字なんだ……。
この勇者手形がこの世界における俺の身分証明書ってことか。
それにしても、王様がさっきまでいなかったのは
俺たちが食事をしている間にこれを作ってたからか……
「全員に勇者手形は行き届いたようですね……それでは本題となる魔王討伐作戦についてご説明しましょう」
女神は改めて壇上に立つ。
「あなたたち勇者にはこれから、魔王を討伐するために準備をしていただきます。準備なしで魔王は倒せませんからね。まず最優先に行うべきなのは『レベル上げ』です。レベルを上げるには経験値を獲得する必要がありますが、基本的には戦闘経験を積むことで得られます。そのため『レア』以上のランクの方には明日から戦闘訓練に参加していただきます」
女神はチラッとだが、俺の方を見た気がした。
「魔王討伐を効率的に行うためにも戦闘訓練には『アンコモン』以下のランクの方は参加できません。『レア』以上の方のレベルを最優先に上げるためにもこれは必要なことなのです」
うそだろ?……てっきり戦闘訓練は全員受けられるものだと思っていたが……じゃあどうやって俺たち低ランクは経験値を手に入れれば良いんだ?
クラスの半数以上が『アンコモン』を占めるため、当然のざわめきが起こるが……
「『レア』以上の勇者は魔王討伐における有効な固有スキルを持つ者ばかり。さらには魔王討伐作戦には必ず作戦に参加しなければいけないリスクを負う以上、この対応は当然ですよ?」
女神は笑顔で黙らせた。
『能無しは黙っていろ』と圧を感じる。
「先陣切って魔王と戦う者の生存率を高めるのは当然です。さらに、あなたたち勇者には時間がありません」
女神は講堂の壁際に控えていた女神直属部隊に指示を出すと
後ろの黒板には大きな茶色の地図が貼り出される。
そして、木で出来た指揮棒を受け取ると――
「これは『ベネディーレシア大陸』の全体を描いた地図ですね」
地図に描かれている大陸は、元の世界で例えると
オーストラリアみたいな少し横長のような形をしていた。
「元々、この大陸には北と南を綺麗に二分するように二つの国が存在していました」
確かに地図には、大陸を半分に切るよう国境線が描かれている。
「しかし、約一年前……北の国『アーグヌス王国』が魔王の手により滅ぼされてしまいました」
おいおい……すでに大陸の半分を魔王が支配してんのかよ……
「そして現在、南に位置する国……今私たちのいる国『メイスーン王国』も約五割の土地が魔王の手に奪われています」
女神は左下のところを指揮棒でぐーるぐるしている。
おいおい、左半分もう取られてんのかよ……
「さらに、つい先日……この大陸の中央、少し下にある国境中央拠点が魔王が率いる『魔物』たちの手により制圧されたのです」
ええ……それって相当ヤバいんじゃないか……?
「国の保有する軍のほぼ全てを使って、なんとか魔物たちの侵攻を足止めできている状態ですが、もう時間がありません。勇者たちには一週間後……この地で決行される『中央拠点奪還作戦』に参加していただきます」
一週間後……ほんとに時間ねーじゃねーか……
いや、本来ならすぐにでも行くべきところを最低でも一週間は戦闘訓練積まないとヤバい作戦ってことか……?
……ってあれ?……移動はどうすんだ?
移動時間も考えると、まじで時間ねーぞ。
「ちなみに私たちがいるのがこの右下の首都ですが、移動に関してはご安心ください。勇者のみなさんは私が異世界へ召喚した時のように作戦地点へと瞬時に移動させることができます」
移動周りは問題ないってことか……
じゃあ、準備期間はキッチリ一週間。
まぁ主戦力じゃない『コモン』の俺には関係ないか……
「この『中央拠点奪還作戦』は国の全戦力を結集して戦う、国が滅ぶか否かの戦いです。そのため、『アンコモン』以下の勇者にもこの作戦には加わっていただきます」
…………は?
「はぁ?……どうして参加しなきゃいけないのよ!」
「『アンコモン』の勇者は参加しなくても良いんじゃなかったの?」
「つまり死ねってことかよ!」
当然の反論で女神に対して罵詈雑言が飛ぶ。
「落ち着いてください、安心してください。あくまで作戦に加わって欲しいとは言いましたが戦って欲しいとは言っていません。あくまで主戦力は『レア』以上の勇者たち。『アンコモン』以下の勇者の方は、ただその場にいるだけで良いのです」
「意味わかんない!」
「結局ヤバくなったら一緒じゃん!」
「いざって時はどうすんだよ!」
さらに女神への反発は強くなるが――
ガンッ――!!
講堂の中央にある机が宙に浮いた――。
…………ガッターン――!!
机が落ちたと同時に一瞬でその場が静まり返る。
「ガタガタガタガタうるせぇぞ。お前ら……まさか俺たち主戦力が負けるとでも思ってんのか?」
空気がピリつくのを感じる。
唯有は椅子からゆっくり立ち上がり――
「女神も戦わなくていいって言ってるんだし別にいいじゃねーか……まさかお前らが俺をそんなに過小評価してるとは思わなかったわ」
ゆっくりと唯有は後ろを振り向く――
「安心しろって。俺が全部なんとかしてやるからさ。だから怖がらなくて良いんだぜ?」
今までの怒気が嘘だったかのような笑顔があった。
「お前たちも不安なのは分かる。だが大丈夫だ。必ず俺がなんとかするからさ。な?」
もう誰も何も言わなかった。
ホッとしたような表情を唯有に向けるしかなかった。
これ以上、唯有を刺激したらいけないと本能で理解したのだ。
「唯有くんの言う通りです。安心してください。今回の作戦に『アンコモン』以下の勇者も連れていくのは2つの理由があります。一つ目は、勇者としての立場を守るためです。本作戦ではこの首都にいる女神直属部隊含めた全戦力も本作戦に投入するため、首都に残りの勇者が平然とのんきに生活なんてしていたら、国民はどう思うでしょうか?」
確かにそれはあるかもしれない……
国全体で勇者を支援するのに、その勇者が戦わないって知れたら、勇者の評判にキズが付くし、今後の異世界生活にも様々な問題が生じてくるかもしれない。
「そして、二つ目の理由ですが……首都の警備が手薄になった際にもしかしたら……」
女神は俺の方を向き――、
「誰かが首都を乗っ取る……なんてことを考えるかもしれませんからね……」
わざとらしい微笑みを浮かべた。




