第22話「パシリ」
長ぇ〜〜〜〜…………
クリムゾンの話長ぇ〜〜〜〜…………
今も美少女ゲームの話に熱中しているクリムゾンがぼちぼち鬱陶しくなってきた。
「ククッ……その後の話が面白くてだな――」
「ああ、ごめん!料理がなくなっちゃったから取りに行ってくるよ」
「むっ、そうか。それだったら我のよそったものを食べるか?」
「あ、いや……申し訳ないから自分でとってくるよ……」
「そうか……」
ふぅ〜〜……
ひとまずクリムゾンから離れられた……
俺は空になった皿をメイドさんに下げてもらい
新しい皿に料理を盛り付けていく。
あ……そういえば……ローストビーフは……お、まだ余ってる!
俺は念願のローストビーフを取りに近づこうとするが――、
何者かが俺の肩に腕をまわしてきた。
「よぉ〜手繰!お前さっきは爆笑だったな!……なぁなぁコントローラー見せてくれよぉ〜」
こいつは…………
「や、やぁ孤塚くん……ごめん……それがコントローラーは使用制限があるか分からないんだけど、今は出せないみたいなんだ……」
「えぇ、つまんな」
孤塚 天羅……不良グループの一人。
いつも唯有の近くにいる小判鮫野郎……
顔は学校の中では一番のイケメンで
昔は映画の脇役に出演したことがあるらしい。
(絶対にその映画は見ないけどな)
そして……俺が一番嫌いな奴だ。
「あ、丁度よかったわ。飲み物切れたから持ってきてくんない?ぶどうジュースな」
「え……?」
「ほらダッシュ!」
俺はケツを蹴り上げられ、そのまま飲み物を取りに行く。
…………完全にクラスの中で俺はカースト底辺になってる。
今までこんなパシリ扱いを受けることもなく穏やかな日々を送ってきたのに、まさかこんなことになるとは……
近くにメイドさんだっていたのに、わざわざ俺に飲み物を取らせに行かすかフツー……
俺はメイドさんに銀色のグラスにぶどうジュースを注いでもらい、それを受け取る。
…………何より、あの孤塚のために俺が動くだと……?
ふざけてるのか……?
「はい、持ってきたよ孤塚くん」
「おお、サンキュ〜」
俺はそのままクリムゾンのところへと帰っていく。
「おぉ、戻ったか……何やら様子がおかしかったが……大丈夫だったか?」
「ああ、うん。大丈夫だよ」
「それなら良いが……」
クリムゾンは優しいな……
さてと……
俺は服の下に隠していたコントローラーを密かに操作する。
「ぐぇぶっ!!」
どこかで手に持ったグラスからぶどうジュースをこぼしたような音が聞こえたが気のせいだろう。
「おいおいどうした孤塚ぁ〜?」
「いや、なんか突然……うわ……だるぅ」
「制服びっしょびしょじゃんw」
「す、すぐに拭くものを用意しますね!」
メイドさん、ごめんよ。
余計な手間をとらせてしまって。
「さ、クリムゾンさん!さっきの話の続きしよっか!」
「ククッ……この、欲しがりめ!……仕方あるまい!」
本当はぶどうジュースの中に俺の身体から絞り出た『レモンティー』も入れて芳醇な香りのカクテルにしてから渡したかったがさすがにそんな時間はなかったなぁ……
それと、ステータスの確認をすると
魔力量は……
【 魔力量 】8/54
さっきまでの残り魔力は『9』だったのが『8』に減ってる。
やはりコントローラーを出すと魔力を消費するのか。
減る条件はコントローラーを出してからの時間経過か
もしくは動かした時間、もしくは稼働範囲……?
この辺の検証は、また後でやるか……
今はひとまずクリムゾンとのひと時を楽しもう。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
しばらくすると宴会会場に女神がやってきた。
「勇者のみなさ〜ん。食事は済みましたか〜?……これより講堂にて魔王討伐作戦をお伝えしますので、準備してくださ〜い」
「ふむ……そろそろか……手繰、準備するぞ」
「そうだね……」
おいおい、クリムゾンと一緒に行動するの確定かよ……
……まぁ、クリムゾンに近付く奴は一人もいないし、良い虫除けになるか……
皿やグラスなどをメイドさんに渡して
俺たちは女神の案内に従って歩いていく。
あれ……そういえば王様はどこいった?
「魔王討伐作戦……ククッ……憩いの時間は終わり、ようやく魔王と戦うのだな……」
「はは、そうだねぇ〜」
さすがに、いきなり魔王とは戦わんだろ。
女神に案内された場所は、扇状の講堂で
中央には黒板や教壇があり、そこを囲むように長い曲線状の机が段差ごとに置かれている。
いつもは何かしらの講習などに使われているのだろうか。
「好きなところに座ってください」
女神はそう言うと、教壇のほうへと階段を降りていく。
「我らはここに座るか」
「そうだね」
俺とクリムゾンは適当に後ろのほうの席に座った。
机が並ぶ列は6列あり、大分後ろの席に座ったため、教壇を見下ろすような感じだ。
だが、ちょっと遠くて見ずらいかも……
「やっぱり前のほうに座らない?もしかしたら何か重要なことを言ったり見たりしないといけないかもだし」
「ふむ……確かにそうだな……我が最高戦力である以上、責任をもって情報を得ねばならないし……よし、前の席に座ろう」
すでに前の席はある程度埋まったのか、俺とクリムゾンは前から2列目のなるべく中央に近い席に座る。
「岡守先生は良ければ私の隣なんていかがですか?先生ですし、教壇のほうが落ち着くでしょ?」
女神は岡守先生にこっちおいで〜してるが――、
「お前の横はごめんだ」
あっさり断られる。
「照れ屋さんですね〜……それでは勇者のみなさんにはこれから魔王討伐作戦についての説明をさせていただきますが、その前に……こちらのカード……『勇者手形』をみなさんにお渡しします」
女神はどこから出したのか、黄金に光るカードを掲げる。
「勇者手形の説明は……王様、お願いできますか?」
講堂の壁際のほうから王様が教壇へと進む。
あ、あれ……?王様ここにいたの?
「こちらの勇者手形には、勇者のランクに応じて装飾を施しました。我が王家のみが使える紋章も刻んでおりますので、この手形を見せれば様々な公共施設なども無料でお使いいただけます。ですので、絶対に無くさないようにだけお願いいたします……」
「それでは、これから名前を言われた方は勇者手形を受け取りに来てください。あ……岡守先生には私が直接……」
女神は岡守先生に近づき、手に持っていた黄金のカードを渡そうとする。
「なぜお前が俺の手形を……」
「だってぇ〜直接渡したかったんですぅ〜」
「ちっ……」
岡守先生は乱暴にそれを受け取ると女神は大変ご満悦でした。
「期待していますよ……?……ふふっ」




