第20話「王様」
俺の爆笑コモン判定が終わった後
残りの生徒たちの判定も無事終わった。
先生一名、生徒三十一名
――合計三十二名。
それぞれのランクの人数は――
レンジェンダリー:三名
エピック:二名
レア:三名
アンコモン:二十二名
コモン:二名
結局、レジェンダリーは三名のまま変わらず
レア以上も意外と少ない。
魔王討伐は相当危険ですよ、とか言っておいて
こんな人数で大丈夫か……?
そもそもこんなランク付けせずに
全員で魔王討伐に挑んだほうが勝率高くないか……?
それとも少数精鋭で挑んだほうが良いことでもあるのか……?
そしてなぜ俺はコモン勇者なんだ……?
「これでみなさんのランク判定が完了しましたね。それではここからは一旦、こちらの王様に引き継いでいただきますので、また後ほど」
そう言うと、女神と
女神の後ろにいた女神直属部隊の人たちはどこかへと去っていった。
「おほんっ!……それではここからは私……あ、我が案内をしていきましょう」
そう言って出てきたのは、今までほとんど女神のせいで存在感を失っていた
ぷりんとした丸いお顔にクルンっとした可愛いお髭を生やした王様だ。
「まずは改めて、この国を……ひいてはこの世界を救うご決断をしていただけたこと……誠に感謝しております」
王様は深々と頭を下げ、それに続き
後ろに控えていた兵士たちも頭を下げる。
なんと丁寧な王様だろうか。
それに、威張ったようなところも感じられないし、とても好感が持てる。
「別の世界から来られたということもあって大変不安もあることでしょうが、我が国は一丸となってあなたたち勇者の援助をさせていただきます。何か困ったことがあればお気軽にご相談ください」
なんと優しくて温かい微笑みだろう。
「それではまず――最も重要なことからご説明させていただきます――」
今までほんわかとした王様の表情が一変……
とても真剣な表情となる。
な、なんだ……この風格は……
一気に王様の顔になりやがった……
「それは……お手洗いについてです」
お手洗い……トイレか……
確かに重要だ……
周りもざわざわし出す。
特に女子たちだった。
確かにこれは重要だ。
「女性の方々がいるにも関わらずこんな話をしてしまうこと大変申し訳ありません。ですが……とても重要なことなのです」
ごくん……
確かにこれは重要だ……
どうして今まで気付かなかったのだろう……
ここは俺たちのいた世界とは違って
相当昔の文化圏だ。
少し遠くのほうにそびえ立つ城は
ファンタジーでよく見るようなお城だし。
ウォシュレット付きの洋式トイレに慣れた
現代の俺たちにとって、どのような地獄が待っているか分からない。
魔王討伐の前になんてとんでもない試練が待ち受けているんだ……
確か、昔ネット動画でチラ見したことがあるが……
昔のトイレ文化では
街中の道路に平然と汚物を捨ててたりして
そこから疫病が蔓延していったという地獄の時代があったらしい。
仮にトイレの文化が進んでいたとしても
水で汚物を流すような仕組みができているか怪しい……
「こちらへ……着いてきてください……」
王様が直接案内してくれるそうだ。
王様の護衛としてか、側には兵団長一人が付き添っている。
「ここは兵士たちが日々鍛錬に励む訓練場ですが、この近くにもお手洗いを幾つか設置しております。基本的にどこのお手洗いも同じ造りをしておりますので、ここのお手洗いで使い方などを説明しましょう」
案内に従ってしばらく歩くと、そこにはズラーっと
個室が並べられていた。
その個室のうち、一つを開くと……
そこには……
ちゃんとした洋式トイレの便器があった。
それに、男が立って小便を出せるやつも存在している。
臭いは少々独特な感じだ。
今まで嗅いだことのないような、本当に独特な感じの臭いがする。
が、まぁ許容範囲ではあるかも。
「汚い話になってしまいますがご了承ください。こちらがお手洗いの中です。まず大きいほうをされたい方はこちらの大便器にて行なってください。しかし、大便器で大きいほうと同時に小さいほうもされたい場合には、こちらにあります尿瓶にて小さいほう行なってください」
王様は白い陶器で出来た尿瓶を手に取る。
「そして、尿瓶に入った小さいほうは、こちらにある小便器の方に流すようにしてください」
生徒たちがざわざわし出す。
なぜ分ける必要があるのか……?
「こちらを分けている理由なのですが、こちらの大便器の中には、おがくずや様々なものを混ぜて作られた見た目は土のようなものが入っておりまして、排泄した大きいほうを農業で肥料として利用できるようになっているのです。ですが、小さいほうも一緒に混ぜてしまうとあまり肥料として質が良くないので、こちらの小便器に流していただいてます。もちろん、小便のほうも流れていった先に貝殻などを通して肥料として利用できるような仕組みになっておりますよ」
…………????
大と小を便器ごとに分けることは分かった……
だが、王様が何を言っているかいまいち理解できない。
「ちなみに、こちらの大便器にて大きいほうをされた後は、こちらの壁についているハンドルをまわしてください。そうすると、大きいほうと中身がまざるようになります」
王様は笑顔で壁のハンドルをまわす。
「大変……凄いお手洗いですね……」
岡守先生は大人だからか、多少理解はしているように見えるが、やはり困惑は隠せないようだ。
「ふふっ……そう言っていただき私も嬉しいです」
王様はなんと無邪気な笑顔を向けてくるのだろうか。
「用を足した後は、こちらの棚にあります紙をご利用ください」
王様は箱の中に入った箱を手に持つ。
あ、あれは……!?……箱ティッシュ!?
箱の上には穴が空いており、
そこから紙を取り出せるようになっている。
紙は茶色いが……
「こちらの紙は床に置かれている蓋付きのゴミ箱の中に入れてくださいね」
す、凄い……
現代のトイレとまではいかないが
ちゃんとしたトイレだ!
まさか、こんなファンタジー世界で
こんなまともなトイレが使えるとは……
「定期的に清掃員が巡回しますが、どうか清潔にこの子たちを使っていただけると嬉しいです」
この子たち……?
想像の斜め上をいく王様に俺だけじゃなく
他のみんなもただただ困惑していた。




