第18話「本物の勇者」
俺はただ、見守ることしかできなかった。
目の前で苦しむ、俺自身が傷付けた女を。
ソーレはあまりの痛みからか意識をすでに失っていた。
「くっ……魔力がもう……限界だ……」
「絞り出せ!!……この子を死なせたらヴィルさんに顔向けできねーぞ!!」
「それは……修行不足って怒られそうね……」
女神直属部隊の回復を担当する三人は
汗を滝のように流しながら先ほど俺を治してくれた時よりも
大きな光を放っていた。
その鬼気迫る光景に周りも息を呑んで見守る。
そして――、
「う……」
ソーレは意識を取り戻した。
「ソーレ、大丈夫か……?」
「ほら、この指の本数を言ってみろ」
「さ、3本……です」
「良かったわ!意識が戻った!」
「いや、まだ全快じゃない……もう一踏ん張りだ……」
「今日は……王様の料理……三人前は食べねーとな」
良かった……
意識が戻った……
「ありが……とう……ございます……」
「いいから……無理に喋るな……」
「身体を少し動かすわよ」
ソーレは仰向けの状態に動かされた後、さらなる回復で
みるみる身体に生気が溢れているように感じる。
呼吸も徐々に穏やかになっていき――、
「よし……具合はどうだ、ソーレ?」
ソーレは上体を起こして、身体の様子を確認する。
「問題ありません。回復いただきありがとうございました」
「よっしゃーーー…………」
「はひゅ〜〜〜…………」
回復担当の二人は全てを出し尽くしたように
その場で寝転がる。
「俺もさすがに……魔力切れだな……」
もう一人の回復担当も脱力してへたれこむ。
俺は気付いたらソーレの側まで近寄っていた。
そして、しゃがみ込み、その第一声が――、
「あの……その……ごめん……」
俺は何を言ってるんだろうか。
自分でもよく分からなかった。
「え……?」
「いや……その……大怪我させて……ほんとごめん……」
「…………え?」
俺ってこんな喋り方だっけ……
ソーレを見ると、なぜかポカンとしている。
なんだその顔。
なんだろう……凄く恥ずかしくなってきた。
「あの……失礼かもしれませんが……あなたがそんなことを言うとは思いませんでした」
「…………は?…………いやいや、普通言うだろ…………え?」
……………………。
「あのさ……あくまで興味本位で聞きたいんだけど……俺ってどんな人間に見えてたわけ……?」
「…………正直に話しても怒りませんか?」
「……え?……あ、うん……」
「人のことを道具としか見ていない、敵対するものは躊躇なく殺そうとする人です」
「ほえ?」
なーにを言ってるんだコイツ。
「いやいやいや……俺はそんな人間じゃないって………………」
……………………
え、そうなの?
俺って……そんな人間に見えてたの?
「はい。そんな人間に見えてました」
「あ、やべ……声出てた……」
「ですので驚きました。人間らしいところもあったんですね」
「いや、めちゃくちゃ失礼だな……そういうお前こそ俺のこと躊躇なく殺そうとしただろうが」
「あれは……女神様の指示で……」
「そうだろうねぇ……女神の指示で『俺を殺しても良い』って言われたんだろ?……そしてお前は命令通り殺そうとしたじゃねーか」
「…………あなたは…………どこまで把握してるのですか?」
「把握も何も全然知らん。だが、今のお前の反応でマジで女神が俺を殺そうとしてたのは分かった」
「あ…………」
「だが、別にもうどうでもいい。俺は別に女神やお前と敵対したいわけじゃない。魔王を倒して元の世界に帰りたい、それだけだ」
「…………殺そうとした相手を許すのですか……?」
「女神は許さん。だが、お前は許す……多分、俺以上の深手を負わせちまったからな……おあいこだ」
「……………………」
「…………あれ?……俺さっきまでなに言ってた?…………え、あれ、うそ…………いや、さっきのは冗談だからね?」
「もう遅いですよ」
……………………。
やっべぇ〜〜〜〜!!!!
俺、なに口走っちゃったの!?
あかんあかんあかん……
絶対言わなくてもいいこと――
言っちゃダメなこと言った気がする――
やべぇ、マジでやべぇ…………
あ、最悪だ……俺……死んだかも。
「随分、仲良いなぁ!元気があってよろしい!」
「ソーレとここまで長く話せるなんて、やるなぁ少年」
「可愛らしいところもあるのね……歳相応の反応……お姉さんワクワクしちゃうわ」
え…………?
もしかして聞かれてたの?
この三人にも……
「だが、女神様は決して君を殺そうとはしていないさ……まぁ、やりすぎだとは思ったが……それは俺たち回復班がいるからだろうきっと!」
「そうそう、女神様はそんなことしないって」
「こら、このお年頃はなんでもかんでも疑いたくなっちゃうのよ」
全部聞かれとるやんけ!
「終わった……」
「だから、もう遅いですよ…………ただ――」
ソーレは真っ直ぐに俺を見て、
「あなたは……本物の勇者になれる気がします」
微笑みながらそう言った。




