第15話「続:嘘つき大会」
「私がソーレに手繰くんを殺害寸前まで追い込むように指示しました。理由は、手繰くんの固有スキルのポテンシャルを最大限まで引き出すためです。手繰くんのスキルは一見、ただ甲冑を操るだけの弱いスキルにも思えましたが、『もしも人を操ることができたなら』魔王討伐においての最大の切り札になりえると考えたのです」
女神の言葉に、周りがざわつくのを感じる。
「人を操れる……ってそんなに凄いの?」
「魔王を操れたら終わりじゃん」
「あ、そっか……でも魔王ってそもそも人なの?」
くそ……生徒の奴らに『人を操れる』って可能性をバラしやがったな……この女神……
「ふざけるな……そんな危険な行為をなぜ隠した?」
「隠さなければ意味がありませんから。本当に死に直面した時に発動できるかもしれませんし……それに……」
女神は俺を冷酷な眼光で見つめる。
「何か隠し事をしているかもしれませんからね……」
…………バレていたのか?
「隠し事……?手繰がそんなことしてなんの意味がある」
「例えば――、『人を操れる』という能力を魔王を倒したあとに悪用しようとしていた……とかですかね?」
「はぁ?……意味がわからん……なぜそんな発想になる」
いや……ごめん先生……
悪用しようと考えてました……
「ですが、それらも取り越し苦労だったようです。手繰くんの固有スキルは『物質を操作する能力』で確定でしょう。手荒な真似をして誤解を招いてしまい申し訳ありませんでした」
改めて、女神が軽い頭を下げる。
「女神……お前が今更なにを弁明しようとも、俺は今後一切お前を信用しない。それに謝罪をする前にすることがあるだろう。手繰は大怪我を負っている。まずはこれをどうにかするのが最優先だろうが。手繰含め、俺たちをまるで『物』のように扱うお前の態度は決して容認できるものではない」
「そんな……私はそのようなことは決して……早く手繰くんの手当を!」
女神はどこか焦ったように、女神直属部隊に指示をして
数名の白銀マントが俺に近寄ってきた。
「すまない……少年。すぐに治してやるからな……」
「これは……ひどい……腕が折れてるぞ」
「大丈夫だからね!すぐに良くなるから!」
女神と違って、女神直属部隊の人たちは
なんと温かい心を持っているのだろうか……
おそらく回復を専門とする人たちなのだろう。
白い光を手から発して、その光が俺の全身を包む。
不思議な感覚だ。
身体の内側から何か力が溢れてくるような……
喉がカラカラな朝一番に飲む水のような――、
お腹が空いた時に食べるコンビニのチキンを食べた時のような――、
足りなかった何かが埋められていくような
満足感を感じる。
今まであった痛みも引いていき
右腕も動かせるような感覚があった。
本当に回復している。
しかも尋常じゃスピードだ……
これが回復魔法……
凄いな……魔法って。
ひとまず、身体が治ってきて
なおかつ人生で一番泣いたからか
大分頭の中がスッキリしている。
一旦、整理しようか――。
まず、先ほどまでの女神の弁明…………
ありゃ、ほとんどウソだな――。
岡守先生が止めなければ、
俺は確実に試合中、殺されていた。
殺した後は、『不慮の事故』とでも言って、その罪滅ぼしとして先生の前でソーレを処刑させて無理やり納得させようとしたかもしれない。
なぜ……?
俺を殺そうとした?
魔王を倒した後に俺がスキルを悪用する可能性があるから……?
いや、違うな――。
まだ女神の真意は分からないが、女神はまだ重要なことを隠している気がする。
確証はないし俺の妄想かもしれない。
だが、そう思わずにはいられない。
その理由は――、正直まだ分からない。
「岡守先生……私のこと……嫌いにならないでください……私は本心から手繰くんのためを思ってやっただけなんです……」
「話しかけるな」
女神は相当、岡守先生がお気に入りらしい。
岡守先生がいたおかげで、俺は殺されなくて済んだ。
そして、今の女神の反応から、今後は直接的に俺を殺すことはないだろう。
おそらく女神から見た俺の評価は
『限りなく黒に近いグレー』ってとこか。
あれだけ追い込んだのにソーレを操作しなかった。
だが岡守先生が間に入ったせいで
人を操れるか否かが確かめきれなかった。
俺が試合前に岡守先生を操って試合を止めさせたのではないか?
って可能性がある以上、疑いは晴れないだろうな。
今後の女神の動向は要警戒だな――。
さてさて、ここからが本題だ…………
なんで俺、ソーレを操作できなかったんだろう……
俺はそのことが一番ショックだった。
「ひ、酷い汗だ……!」
「少年、まだ痛むところがあるのか!?」
「大丈夫だからね!お姉さんが手を握ってあげるから!」
いえ……違うんです……
思い出しショックで冷や汗が出ただけです……
なぜ人を操れなかったんだろう……
何か原因があるのだろうか……
いや、それとも――
俺は確かめるようにステータス画面を開いてみた。
―――――――――――
<手繰 大和:Lv3>
【 生命力 】29/43
【 魔力量 】9/54
【物理攻撃力】35
【物理防御力】50
【魔法攻撃力】52
【魔法防御力】59
【 素早さ 】26
【固有スキル:コントローラー使い】
触れた物を顕現したコントローラーで操ることができる。
―――――――――――
……あれ?
なんか数字変わってね?
………………あ、レベルが上がってる。
もしかして、さっきの試合で上がったのか?
ステータスも上がってるな。
……いや、それよりも今は――、
俺は固有スキルの説明欄を凝視する。
【固有スキル:コントローラー使い】
触れた物を顕現したコントローラーで操ることができる。
……………………
『触れた物を顕現したコントローラーで操ることができる。』
………………
『触れた物を』
…………
『物』
……
もしかして『物』って人とか生き物とか含まない
『物質』とか『道具』とか、そういう意味――!?
え……マジで……?
じゃあ、俺が女神に嘘ついて教えたスキル内容まんまじゃねーか!
俺は女神に嘘ついた言葉を思い出す……
『名前は『手繰 大和』です。固有スキルは、えーっと……『コントローラー使い:触れた物質を顕現したコントローラーでゲームのように操ることができる。ただし、生命体を操ることはできない』……と書かれています……』
……………………。
え、じゃあ俺
実質本当のスキル内容を教えたのに、疑われて殺されそうになったってこと……?
いやいやいや……
どうしても現実逃避したい……
もしかしたら、ステータスにある――
【 魔力量 】9/54
この『魔力量』ってやつ、相当減ってやがる。
もしかしたら固有スキルを使ったから減った可能性がある。
そして、人を操るためには
相当な魔力量が必要だから、あの時は使えなかった!
そうだ!
……きっとそうだ!!
あはははははは……はは……
「こ、今度は笑い出したぞ!?」
「しょ、少年!気を確かに!!」
「だ、大丈夫!?お姉さんなんでもするから!!」
うん……現実逃避はやめよう。
『魔力量』に関しては後で検証するとして、
認めるべきだろう……俺は――
『人を操ることはできない』
だが、可能性はまだある――。
『カスタムスキル』
レベルが10上がる毎に追加で付けられるスキル……。
この仕様を使って、俺のスキルを
『人をも操ることができるスキル』へと成長させる。
そうすれば問題ないじゃないか!
ただなぁ……
本当にカスタムスキルで人を操れるように
成長させられるかは不明だし……
カスタムスキルには謎が多すぎる。
ん〜〜〜〜〜…………
そうだ……!
女神に直接聞こう!!




