第1話「異世界召喚された中三」
「残念ですが……あなたの勇者ランクは『コモン』となります」
女神様がそう告げると――
「最低ランクってまじかよw」
「てか『コントローラー使い』ってなに?w」
クラスメイトの大半から
バカにするような笑い声が聞こえてくる。
「あははっ、だよね〜」
平和主義な俺『手繰 大和』は、
みんなに愛想笑いを振り撒き
場を和ませる。
ふふっ……こんなことで動揺する俺じゃない……
俺は深呼吸して、冷静になって考えた。
今バカにしたやつ……顔、覚えたかんな!!
俺の固有スキル『コントローラー使い』は
確かに意味不明だが
スキルを強化しまくって
いずれお前ら全員、
支配してやるかんな!!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
俺が『コモン勇者』という格付けをされた
ほんの1時間ほど前――。
俺は、高校受験が終わり
解放感に浮かれ、
「卒業旅行どこ行く〜?」
みたいなクラスメイトたちの会話に
うんざりしていた。
俺には友達がいない。
いや、違う。
厳密に言えば、このクラスには友達がいないのだ。
他のクラスに行けば
いつも放課後に遊ぶ『いつメン』がいるし
決して寂しいわけじゃない。
決してだ。別に寂しくなんかない。
……ただただ暇なのだ。
思えば、この中学3年間――
毎日毎日『早く卒業したい』と
思わされる日々だった。
周りで当然のように起こる『いじめ』
友達の中の一人はそれで不登校になった。
授業中も大声で話す奴ら。
こっちは授業受けとんねん。
授業受けないなら帰れや。
我が物顔で威張り散らす不良。
目をつけられないように
上手く立ち回らないといけない。
中学生ながらに思う――。
ここは地獄だ。
近隣の小学校から知能の低い
選りすぐりの悪ガキ共が
1つの中学校に押し込められる……
まるで『蠱毒』――
誰かが笑っている裏では
誰かが必ず泣いている。
毎日毎日、頭の中で妄想した。
『もしも特別な力を手に入れて、人を操れたら……』
俺ならこうするね。
いじめはゼロにして〜
いじめっ子にはキツ〜い罰を受けてもらって〜
授業中に喋る奴らを黙らせて〜
落ち着いた心で勉学に励み〜
(まぁ、そんな真面目に授業は受けてないが)
不良くん達には立場を分からせて〜
真面目くんに矯正して〜
あわよくば世界中の悪い奴らも
ついでに真面目くんに矯正してやりたい。
汚職政治家とか
殺人犯とか
悪人全員……
ただ普通に暮らしたい人たちの味方でありたい。
そう思ってはいるものの、
『思ってるだけ』で何の力も持たず
何の行動もしていないただのガキ。
それが俺。ウンザリだね。
でも、よく耐えたぞ……俺。
あとちょっとで
3年間の監獄生活を終え、
晴れて高校生活。
最低な奴らが入学できない
一定水準の高校で穏やかに暮らすんだ。
「お前ら〜席につけ〜」
死んだ魚の目をした担任が
朝のホームルームを始める。
先生……目の下のクマ
酷くなってないか……?
(俺も人のこと言えないが)
それにピカ――――っと全身を
発光なんかさせちゃって……
今はハロウィンじゃないですよって……
…………発光????
気付けば先生だけではなく
周りのクラスメイト全員が
眩い光に包まれ――
(あ、俺もだ――)
――――光はどんどん――――強くなって――――
クラスメイト達の――――パニックの声も――――
聞こえなくなり――――目の前が――――
――――真っ白になった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「おぉ!!さすが女神様!!我が国のため、再び異世界の勇者たちを召喚していただけるとは!」
「ようこそ、異世界の勇者たちよ!」
瞼をゆっくり開けると――
担任の後ろに立つ、二つの人影が見えた。
一人は、光が反射する度にキラキラうるさい王冠をかぶり、見た目だけで『我、王様だよ』と過剰にアピールしてくる白髪の太ったおっさん。まるんっと脂の乗ったお顔に、白くてクルンっとしたお髭がアクセント。
もう一人は、光が反射する度にキラキラうるさい白銀の露出多めなドレスを着ている大人のお姉さん。ただ……胸の谷間を無理やり作って盛っているようだが……気にしてるのだろうか……。ん……?お尻がデカいぞ。
あれ……二人の後ろにも沢山の人影が……。
おっさんの背後には、よく磨かれた甲冑を着ている『俺たち、兵士だよ』とアピールしてくる集団が整列。
大人のお姉さんの背後には、白銀のフード付きマントで全身を覆っている集団が整列していた。顔が隠れて見えない。
……なんだァ?この人達……
担任も背後の異様な気配に気付いたのか、振り向く。
「…………」
無言だった。
クラスメイトたちも無言だった。
ただただ、異様な光景を見つめ
何が起こっているのか分からず言葉が出ない。
無理もない。
朝のホームルームが始まると思ってたら、突然光に包まれ、目を開けたら担任の背後に主張の激しいコスプレ集団。
俺は考えるのをやめて、周りを見渡してみた。
空は良い天気で日差しが心地いい。
ここに桜があれば、花見がしたい気分になった。
「あの〜?聞こえてますか?」
大人のお姉さんは、担任の何を考えてるのか分からない顔を覗き込むように問いかける。
担任は寝不足で頭が働いてない頭をフル回転させるため、眉間をギュッと指で摘み
「ふぅ――――……」っと息をゆっくり吐いて、瞼を開いた。
「幾つか質問しても?」
「ええ、どうぞ」
大人のお姉さんは優しく微笑みかける。
「ここはどこです?」
「あなたたち勇者が住んでいる世界とは別の異世界、ベネディーレシア大陸の南東にあるメイスーン王国です。ちなみにこの広場はお城近くにある兵士訓練場ですね」
「……私たちが元の世界へ帰る方法は?」
「この世界を滅ぼそうとする魔王を討伐していただければ帰れますよ」
「今すぐ帰してもらうことは?」
「できません。規則ですので」
これは……荒れるぞ……。