第九章 暴かれる真実
翌日、アンナはジャクソンとともに、そのUSBメモリの映像をじっくり検証した。トランプ大統領がステージ上で胸を撃ち抜かれ倒れる直前、誰かが無線機で合図を送っている。続いて、別の方向から銃声が聞こえた。そして混乱の最中、ステージ裏から急ぎ足で出て行く男の姿。彼はグリーン議員の選挙キャンペーン本部に所属するスタッフとして、ニュース映像でも何度か見かけたことのある人物だった。
「つまり、エリック・ファーゴは実行犯の一人ではあるけれど、裏で糸を引いている集団がいるってことか……」
ジャクソンは怒りを滲ませながら呟く。
「ロザリー・グリーン本人がどこまで関与しているかは、これだけでは断定できない。けれど、少なくとも彼女の周辺スタッフが関わった可能性は高い」
アンナは震える声で言葉を続ける。
「なぜ……同じ保守陣営なのに、わざわざ大統領を狙うの?」
「保守同士の主導権争い、あるいは“トランプ後”の世界を睨んだ動きかもしれない。大統領を排除すれば、自分たちが保守票を一手にまとめられる――そう考えた勢力が存在しても不思議じゃない」
アンナはその発言に背筋が寒くなる。なんとも恐ろしい政治の論理だ。
「これ、どうするの? 私たちだけで抱えていても、危険じゃない?」
「だからこそ公表する。メディアを使って拡散するんだ。ここまで来たら真実を明らかにするしかない」
「でも、今の当局はどう動く? FBI上層部も政治的圧力をかけられてるかもしれない」
アンナの問いに、ジャクソンは唇を噛む。上司のフレイザー副長官は「とにかく捜査を早期に幕引きしろ」と暗に迫っていた。しかし、真実を闇に葬りたくないという思いがジャクソンの中には強くある。
「俺が直接、いくつかの有力メディアに同時に情報をリークする。それと同時に、司法省や国会にも映像を提供する。いわゆる“拡散作戦”だ。一箇所にしか情報を渡さないと、もみ消される危険がある」
ジャクソンの提案に、アンナは力強く頷く。デイヴィッドを拷問してまで消し去りたかった映像があるのなら、それを複数のルートで一斉に公開してしまえば、もはや止められない。
実行までの時間はあまりない。ロザリー・グリーン議員やその側近たちは、いつ何を仕掛けてくるかわからない。アンナは自分の紙面に特集記事を書く準備を始め、ジャクソンは複数のテレビ局や新聞社、ネットメディアを説得して回った。
数日後の夕刻、アンナは全国ネットのニュース番組にゲスト出演する。そこに合わせて、USBメモリの映像が各報道機関に解禁された。キャスターが「大統領暗殺未遂の新証拠」として報じ始めた瞬間、SNSを中心に瞬く間に情報が拡散する。