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第七章 対立の渦

 ロザリー・グリーン上院議員は、首都ワシントンD.C.で会見を開き、大量のカメラフラッシュを浴びながら毅然とした表情でマイクに向かった。

 「まず、ドナルド・トランプ大統領が被害に遭ったことに対して、強い憤りと悲しみを表明します。これは民主主義への挑戦であり、断じて許されない暴力行為です……」

 流暢なスピーチ力を備えたグリーン議員は、さながら国民の前に立つ指導者のように振る舞う。

 「我々は一丸となって、このようなテロ行為に立ち向かわなくてはなりません。私は保守派として、大統領の早期回復を心より祈っています」

 だが、アンナの耳には、その言葉の裏にある政治的下心が透けて聞こえるようだった。グリーン議員は大統領候補としても名前が上がっている。かねてからトランプ大統領とは友好関係を装いつつ、実際には政策面や支持層の取り込みをめぐって暗闘していたという噂が絶えない。

 会見を見つめるジャクソンは、冷静な目をしていた。

 「これだけの大舞台で、強いメッセージを発信する。まるで自分が次のリーダーだと言わんばかりだな」

 「ええ……。でも、彼女が直接この事件に関与しているとは限らないですよね?」

 アンナは探るように尋ねる。ジャクソンは曖昧に頷くだけで、何も言わない。

 ところが、会見場から引き上げるグリーン議員を追いかけようとしたとき、周囲にいた支持者らしき人々が壁となって道をふさぐ。ジャクソンがバッジを見せても、SPらしき男たちが「議員は忙しい」と取り付く島もない。アンナは一瞬隙を突いて声をあげる。

 「グリーン議員! 事件当日、あなたはどこにいらしたんですか? トランプ大統領との最近の関係は?」

 しかし議員は振り返らず、車に乗り込んで去っていった。

 「強固な壁だな。だが、こいつは厄介だぞ。議員が銃撃事件に関与なんて話は、証拠なしではとても表沙汰にできない」

 ジャクソンは苦い顔で言う。アンナもその通りだと感じる。グリーンほどの大物政治家に疑惑を向けるなら、よほど明確な物証が必要だ。

 その頃、トランプ大統領の容体はますます深刻だというニュースが流れ始めていた。手術はなんとか成功したものの、弾丸によるダメージが大きく、意識は戻っていない。もしこのまま最悪の事態となれば、権限移譲の問題や副大統領の就任など、国政は大混乱に陥るだろう。アンナの携帯には国内外のメディア仲間から問い合わせが殺到していた。

 同時に、「エリック・ファーゴ単独犯行説」を疑問視する声もネット上では増えていた。極右団体による計画的犯行? あるいは反トランプ派による謀略? 情報が錯綜し、どれが真実なのかわからないまま、多くの噂だけが拡散していく。

 そんな中、アンナのスマホに着信が入る。見知らぬ番号だったが、彼女は迷わず出た。

 「……もしもし?」

 途端に、かすれた男性の声が聞こえた。

 「アンナ……俺だ。デイヴィッドだ……」

 「デイヴィッド!? 大丈夫なの!? どこにいるの?」

 アンナの心臓が跳ね上がる。だが、回線は雑音混じりで聞き取りにくい。

 「まだ……やばい状況だ。追われてる……でも……映像を……守った……」

 「待って、どこ? 警察に行くから!」

 しかし、そこでガサガサという音とともに電話は切れた。何度かけ直しても繋がらない。

 「バーンズ捜査官! デイヴィッドから連絡が入りました!」

 アンナは慌ててジャクソンを呼ぶ。ジャクソンは即座に動き、通信のトレースを試みるが、すでに手遅れだった。発信地は特定できない。

 だが、デイヴィッドは少なくとも生きている。そして、映像を守っていると言っていた。そこに決定的な証拠が収められている可能性が高い。

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