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第六章 FBIと記者

 FBIのニューヨーク支局は、ビルの高層階に事務所を構えている。ビル内はセキュリティが厳しく、アポイントメントなしでは入ることさえ難しい。だが、アンナは運よくジャクソンが玄関ホールに姿を現したところを捕まえた。

 「バーンズ捜査官、少しお時間をいただけませんか?」

 ジャクソンはちらりとアンナを見て、警戒するような表情を浮かべる。

 「こんなところに来ては困る。私は今、事件捜査で手が離せないんだ」

 「それでも、デイヴィッドの件でどうしても話したいことがあるんです。昨晩、こんなメールが届きました」

 アンナはスマートフォンを差し出し、脅迫メールの画面を見せた。そこには「映像を始末する」「探るな」といった不穏な言葉が並んでいる。

 「彼が撮った映像に、何か真実が映っていたんじゃないかと思うんです。だから、犯人あるいは犯行組織がその証拠を消そうとしている可能性がある」

 ジャクソンは眉間に皺を寄せ、スマホを一瞥した。

 「わかった。とりあえず、中で話をしよう」

 会議室に通されたアンナは、そこがFBIの臨時作戦室になっていることに驚いた。壁には大きなホワイトボードがあり、そこに銃撃現場の見取り図や、エリック・ファーゴの写真、極右団体の相関図のようなものが貼り出されている。

 ジャクソンは急ぎ資料を伏せ、アンナをテーブルに案内した。

 「メールを受け取ったのはいつ?」

 「昨夜の午前2時ごろです。差出人不明。本文にはああ書いてあって、添付ファイルは何もありません」

 「他に心当たりは?」

 「まったくありません。デイヴィッドの最後のメッセージは『ステージ裏で何か怪しい動きがある』っていうものだけです」

 ジャクソンはそうか、とつぶやいて考え込む。事件発生時、デイヴィッドはステージ周辺でカメラを回していたのだ。あの大混乱の中で、第三者には気づかれないようなシーンを撮影したのかもしれない。

 「捜査当局としては、エリックが単独犯行だという見解を表向きに打ち出している。だが、私もそれだけでは説明がつかない点が多いと思っている。もし組織的犯行なら、デイヴィッドが何か決定的な瞬間を撮影していた可能性がある……」

 「それが理由で彼は連れ去られた? あるいは逃げているうちに危険な目に遭ったのかもしれない。でも、誰がそんなことを……」

 アンナの言葉に、ジャクソンはため息をつくように答える。

 「政治的思惑はいくつも考えられる。極右団体、反トランプ派、もしくは政界の内部抗争……。大統領の政策に反発する勢力だけでなく、トランプ大統領とライバル関係にある政治家が裏で糸を引いているかもしれない。まだ推測の域を出ないが……」

 そのとき、部屋の外から別の捜査官が慌ただしく入ってきた。

 「バーンズ捜査官、ロザリー・グリーン上院議員が記者会見を始めたそうです。事件への緊急声明を発表するとのこと」

 ロザリー・グリーン。アンナはその名前を聞いた瞬間、胸がざわついた。グリーン議員は保守派の大物女性政治家で、トランプ大統領とも友好関係があるとされている。しかし、最近は外交政策や経済対策をめぐって意見が割れているという噂もある。

 「緊急声明、か……。行くぞ」

 ジャクソンはアンナを置いていくかのように立ち上がったが、ふと思い直して言った。

 「おまえも来るか? 記者としてな」

 「え……いいんですか?」

 「ただし、捜査情報は漏らさないこと。デイヴィッドの件が動きそうなら、おまえに連絡する。持ちつ持たれつだ」

 アンナは頷き、そのままジャクソンとともにFBI支局を飛び出した。

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