第五章 消えたカメラマン
夜を迎えても、ニューヨークは混沌としていた。トランプ大統領銃撃のニュースは世界中に流れ、各国首脳からの声明、投資市場の揺れ、国際政治の不安定化など、余波は瞬く間に広がる。
アンナは編集部に戻り、デスクに山積みになったファイルやメモを必死で整理していた。まともな記事に仕立てるためには、どうしても現場の映像や写真が欲しい。だが、彼女の友人でもあるデイヴィッドが行方不明のままでは、何をどう書いていいのかわからない。
社内も騒然としていた。地方紙とはいえ、今回の大事件における現場レポートの需要は大きい。テレビ局やネットメディアから映像の提供依頼が殺到し、上司はやきもきしている。
「アンナ、どうなってるんだ? デイヴィッドの撮った素材は? 彼、まだ連絡つかないのか?」
「ええ……いま警察にも問い合わせてるんですけど、まだ何も……」
編集長が頭を抱えて舌打ちをする。
「まったく、こんな時にトラブルか。仕方ない、君が書けるだけの記事を書いてくれ。目撃したこと、会場の状況、取材した範囲でいい」
「わかりました……」
アンナはやむを得ず、銃撃当時の混乱を中心とした記事を書き始めた。だが、筆は思うように進まない。どうしても頭の片隅が、デイヴィッドの安否を案じてしまう。彼の携帯は誰かに持ち去られたのか、それとも圏外なのか。現場で撃たれたような報告はないが、もしかしたら怪我をして倒れているのかもしれない。
――その深夜、アンナは一通のメールを受け取った。差出人は不明。件名は「David」。
メール本文には短い文章が書かれていた。
「お前の仲間が撮った映像を始末する。これ以上探るな。さもなくば、お前も同じ目に遭う」
アンナは息を呑んだ。これは明らかに脅迫だ。誰がこんなことを? デイヴィッドは本当に、何か重大な映像を撮影してしまったのだろうか。そう考えると、いてもたってもいられない。
翌朝、アンナはジャクソン・バーンズのオフィスを訪ねるべく、FBIのニューヨーク支局に向かった。