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第三章 犯人の輪郭

 数時間後、病院を後にしたジャクソンはFBIの臨時指揮所へ向かった。そこには、銃撃犯として現場で逮捕されたエリック・ファーゴが連行されているという。元海兵隊員であり、退役後は極右思想の団体に接近していたという情報が入っている。

 薄暗い取調べ室に入ると、手錠をかけられたエリックが椅子に座っていた。身長は190センチ近くあるのではないかというほど大柄で、頬はやせこけ、目はどこかうつろだ。しかし、その瞳には奇妙な光が宿っている。

 「エリック・ファーゴだな。FBI特別捜査官のジャクソン・バーンズだ」

 ジャクソンが名乗ると、エリックは無視するように頭を背けた。

 「おまえが大統領を撃ったのか?」

 ジャクソンの問いに、エリックは軽く鼻で笑う。

 「大統領? そんな肩書きなど、どうでもいい。あんな男は殺されて当然だ」

 傲慢とも取れる口調に、ジャクソンの眉がわずかにひそめられた。

 「理由は?」

 「自由のためだ。腐敗した政治に対する抵抗。俺はその先鋒となっただけ……わかるか?」

 「具体的に言ってみろ。誰の指示だ? 仲間はいるのか?」

 「さあな。おまえらFBIが、どうせ全部でっち上げるんだろう?」

 エリックは嘲るように肩を揺らしながら笑うだけで、核心を語ろうとはしない。単独犯だと主張するわりには、どこか組織的な匂いがある。ジャクソンの捜査官としての勘がそう告げていた。

 取り調べは難航した。いくら尋問を重ねても、エリックは明確な動機を語らない。ただ「お前らには分からない」「俺は一人じゃない」などと断片的な挑発を口にするばかりだ。上司のフレイザー副長官は「政治的テロリストとして処理すればいい」と早期決着を急ぐが、ジャクソンはどうにも釈然としない。

 トランプ大統領という、強烈なメディア露出を持つ人物を狙った暗殺事件にしては、計画性に乏しい印象がある。エリックが元軍人としての射撃技術を持っていたのは事実だとしても、その背後を洗わないわけにはいかない。極右団体との繋がりだけでなく、政界の大物や軍内部の影響力者が事件に関与していないか。何か大きな力学が働いた可能性をジャクソンは感じ取っていた。

 「バーンズ捜査官、会見が始まります」

 ドアをノックして現れた同僚が知らせる。ジャクソンはやむなく取調べを切り上げ、記者会見の会場へ足を運んだ。そこではホワイトハウス代理人とFBI高官が揃い、全国向けに事件の概要を説明しようとしていた。

 すでに多くのカメラが並ぶ中、ジャクソンは最後尾で立ち止まる。壇上に立ったFBI高官がマイクを握った。

 「本日午後、大統領が演説会場で銃撃を受けました。犯人はエリック・ファーゴ容疑者。元海兵隊員であり、過激な思想を持つグループと関係があると見られております。現在、大統領は重体であり、我々は暗殺未遂として捜査を進めています……」

 定型的な発表が続く。だが、ジャクソンは壇上の説明がどこか歯切れの悪いことに気づく。発表される内容は極めて表層的で、背後関係には一切触れられない。まるで「単独犯行」として片付けようとしているかのようだ。

 「犯行の動機については?」

 「今のところ、不明です」

 「大統領の容体は?」

 「危篤状態との報告ですが、詳細は医療チームにお任せしています」

 その場にいた記者たちが一斉に質問を浴びせるが、公式発表は要領を得ないまま終了を告げた。ジャクソンは胸中で苦い思いを抱えながら、取材陣を見渡した。すると、その最前列にアンナ・ハミルトンの姿が見えた。彼女の厳しい眼差しが、壇上を貫いている。

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