白銀美桜01
ベルナ劇場での公演も順調だった。
そんなに大きくないけど、きれいな劇場だし、詩織が音響とか整えてくれた。
とにかく、ホームグラウンドとしては十分すぎるくらい。
こっちでの生活にも慣れてきたしね。
この前、みんなで雑談していたんだけど。
こっちの武道館ってどこなんだろうってね。
やっぱ、貴族とか王様のところには、もっと大きな劇場があるんだろうなって。
向こうの世界では、合同で体育館とか大学のホールとかでやったことあるけど。
できたら、一度だけでも大きなところでやってみたいって気持ちもある。
ただ、こっちは音響設備とかないから、まあそころへんも詩織がなんとかできてからって感じなのかな。
それとこの世界で気になるのは、治安の悪さだ。
わたしたちにはフリップさんがボディガードをつけてくれているけど、絶対にひとりで出歩かないようにって注意されている。
休日の買い物とかそういうときでも、キリシュさんがついてきてたりする。
とにかく、前の世界とちがって貧しい人が多いみたいだ。
それも食べられないってレベルで。
フィリップさんは、そういうのに心を痛めてて、なんか仕事をあっせんしたりして助けてあげてるみたいだけど、限界がある。
もともとフィリップさんもストリートチルドレンだったらしい。
キリシュさんもそうだったらしくて、昔の貧乏自慢が多い。
それはわたしたちからしたら引いちゃうレベルなんだけどね。
わたしたちも、少し前にチャリティライブなんかをやってみた。
かなりの収益が上がったみたいで、教会の人にすごくお礼を言われた。
そこになんか王様からの使者とか言う人が劇場にやってきたのだ。
小太りの小男だ。
鼻の下に髭なんか生やして、それが左右にとんがってる。
ジェルかなんかで固めてるんだろうな。
まあ、元の世界ではお笑い芸人くらいしかしないような髭だ。
そいつを囲むように騎士が控えている。
「わたしは王宮侍従長のラファエロだ。
お前たちの踊りと歌を見てやった。
今、王都の下賤な国民の間で大人気らしいな」
「いえ、それほどでも」
美羽は謙遜するけど、チケットの売れ行きは順調。
即完売って感じらしい。
「まあ、肌を露出して踊るという下賤な芸だが、王が一度みてみたいとのことだ。
王宮劇場で歌うことを許可してやろう」
なんか、上から目線じゃね。
むかつく言い方だ。
こっちは別に頼んでいない。
「いえ、わたしたちは…
スケジュールもありますし」
「なんだと!他の芸人なら涙を流して喜ぶところだぞ。
それほど、光栄なことなんだぞ。
そんなこともわからないのか。
やはり、下賤のものは、何もわかっておらん。
だれか、話がわかるものはおらんのか!」
髭のおじさんは、なんか顔を真っ赤にして叫ぶのだった。