フィリップ組キリシュ21
「死んでる…」
俺はムサシに近づいて、彼の顔を覗き込む。
そして、腕を取る。
その感触は冷たく、生きている人間のものと違った。
たぶん、おっさんたちを見て覚悟をしたのだろう。
覗き込んだその表情はなぜか安堵に満ちていた。
いさぎいい男だった。
俺のようにみっともなく生き恥をさらさない。
その姿勢には、敬意しかない。
「で、お前はどうする?」
俺はカシウスに問う。
カシウスだけなら、軽く退けることができる。
「なんなんだ。
このおっさんに女子供、じじいは?
それにムサシさん。
どうしたんですか?
こんなときにいきなり脳梗塞とかないっすよ」
カシウスは狼狽える。
わかんねえのか?なぜ、ムサシが死んだか。
やはり、カシウス、お前はまだまだだ。
「キリシュさん。
わたしらはクレメンス家と極道会の意向で動いている。
このまま、わたしらを通してもらえないっすかね。
もし、そうでないと、貴族とマフィアに喧嘩を売ることになります。
それでよろしいんでしょうかね」
確かにそれはまずいかもしれない。
ここで俺がつっぱるのは簡単だ。
しかし、ジュエルボックスに迷惑をかけるわけにはいかない。
「クレメンスって、あそこらへんの貴族かな?」
少年が指をさす。
その方向には煙が上がっている。
どういうことだ。
「なんか。町でジュエルボックスにちょっかいをかけようとしている貴族の話を聞いたんじゃ。
それで、ちょっと話を聞きに行ったんじゃ。
そしたらこの女が話も聞かずに燃やすし、スライムは溶かすし、ドラゴンは屋敷を壊すし、大変じゃったんじゃ。
まあ、地下に奴隷倉庫があって、全部解放しておいたんじゃがな。
こいつらはもう少し我慢というものを学んだほうがいいと思うんじゃ。
わしはとめたんじゃがな」
老人は仕方がないというように手を広げて顔を左右に振る。
「何言ってんだ。じじい。
元をいえばお前がこの話聞いてきたんだろう」
「そうじゃ。わしはあらゆるところにゴーストを放っているからの。
いろいろな話が入ってくるんじゃ」
老人は得意そうに微笑む。