求道者ムサシ03
イメージの中で女に斬りかかる。
そのとたん、わたしの頬を平手で叩かれる。
そのまま、わたしは燃え消し炭となって崩れる。
なんだ、このジャージの女は。
それにその後ろに少年と老人。
今度はわたしの脳内に少年との戦いがイメージされる。
これは一種の職業病だ。
相手を見ると、シミュレーションをしてしまうのだ。
そこらへんで猫を見かけたときでさえ、この能力は発動してしまう。
わたしは少年を斬る。
そのとたん、少年は変形し、刀をとらえる。
そのまま、わたしの身体を撫でる。
わたしの身体は強い酸で溶けてしまう。
こいつもやばい。
あと老人。
こいつは対峙したとたん、後ろにゴーストが現れる。
そのゴーストはわたしに近寄り、魂を抜く。
魂を抜かれたわたしの身体は、その場に膝をつく。
こいつら、なんなのだ。
もしかして、キリシュが腑抜けになったのは、こいつらのせいか。
確かに。わたしはいままで克服できないものはないと思っていた。
自分を強く持つことで超えられない壁はないと思っていた。
キリシュに負けた後も、山にこもり厳しい特訓に明け暮れた。
より強く、より速く、より上手く。
思考は現実化する。
だから、わたしは強くなるためにすべてのことを捨てた。
強くなること以外を考えることをやめた。
それなのに、すべては無駄だった。
わたしの求めた道は、この少年や老人にすら通じないのだ。
キリシュと対峙して、彼が弱くなったと感じた。
それは、わたしが強くなっただけだと思っていた。
しかし、キリシュはこいつらに会っていたんだ。
それなら、絶望をするのもわかる。
剣技を磨いても、なんの意味もないのだ。
だから、キリシュは冒険者をやめたのか。
わたしも真実を悟った。
わたしのこれまでやってきたことはすべて無駄なことだったのだ。
この状態、もう詰んでいるのだ。
わたしは、彼らのほうに向かって一礼する。
「参りました」
わたしの口から敗北の言葉が出る。
もう、終わりだ。
これ以上生きている意味もない。
しかし、わが人生に一片の悔いなし。
わたしは天を見上げて、生命活動を終えるのだった。