フィリップ組キリシュ19
やつの間合いは、以前どおりではないはず。
できるだけ柔らかく構えてなんにでも対処できるようにしよう。
これが、俺の流儀だから。
俺は、だれかに剣をならったことはない。
とにかく、スラムで生まれ生きるために子供のときから戦ってきた。
俺は戦いの中で剣を会得してきた。
持ち方から我流。
ただ、俺には才能があったみたいだ。
俺の剣は風の剣と称される。
とにかく、自由なのだ。
たしかに古より受け継がれてきた流派には、それなりの合理的な理由がある。
できるだけ速く強く剣を振る方法、相手の剣を受ける方法。
そういった経験を受け継いで積み重ねてきたのが剣の流派だ。
レナードはそういうものを学んできた。
ただ、それには弱点もある。
新しいことには対処できないのだ。
それに対し俺は戦いの中で剣を磨いてきた。
戦いには同じ局面なんて一度もない。
だから、おれはその戦い、敵に合わせて剣を振ってきた。
ギルドでも教えを請うやつはいたが、教えられないのだ。
なぜなら、俺には流儀や剣技などないのだ。
できるだけ、しなやかで強い筋肉を作って、敵の動きに対応するかだ。
敵の動きに合わせて動き、態勢を崩し、自分の剣をきめる。
俺のやることはそれだけだった。
自然に構えて、相手の動きをどんな些細なことも見逃さずに見る。
俺は、ムサシの闘気を読む。
俺はあるときから戦うときの空気の動きが読めるようになった。
これも、言葉では表せないものだ。
俺はそれを闘気と読んでいる。
その動きから、相手の次の攻撃が読めるのだ。
そして、それに合わせればいい。
前回ムサシから逃げ出せたのも、この力のためだ。
ただ、それは読めるときもあれば、読めないときもある。
特に敵が強いほど読めないのだ。
今の目の前の敵も強い闘気は感じる。
ただ、その動きは読めない。
だから、勝てる確率は低いし、できて相打ちなのだ。
「いざ、参る」
ムサシはそう言って、動く。
居合だ。
剣を抜いて踏み込む。
この動作が攻撃になっているのだ。
俺は、その動きを読むのに一歩遅れる。
やばい。
このままでは、腕が落とされるだろう。
その瞬間、身体が動く、身体を横に回転させて避ける。
それでも間に合わない。
俺は、そのまま剣で受ける。
普通の人間なら、この態勢から剣は出せないだろう。
ただ、俺ならできる。
どんな態勢でも剣を振ることができる。
この体幹の強さ、この自由さが俺のちからなのだ。
ムサシは受けられたと思ったとたん離れる。
そう、こいつも俺の力を読んでいるのだ。
一瞬の攻防がおわり、元の位置にもどる。
その俺の頬を冷たい汗が伝い落ちるのだった。