フィリップ組キリシュ17
俺とムサシが戦うことになった。
やつはいやなタイミングで剣を抜いて攻撃をしてくる。
大体の間合いはつかんでいるが、踏み込みの深さで距離が変わる。
こういうのはレナードは苦手だ。
剣の強さの戦いならレナードだが、速さや技の戦いなら俺のほうがいい。
しかし、俺は命の削りあいをするつもりはなかった。
変態かもしれないが、こいつの剣は本物。
勝てるかもしれないが、ぎりぎりの戦いになる。
少しのケガでも負ってはバカらしい。
もともと、戦う必要なんて一ミリもないのだ。
それに勝っても得るものはなにもない。
逃げるタイミングをつかむことに集中する。
逃げるだけなら、なんとかなりそうだ。
「レナード逃げるぞ!」
俺はレナードに声をかけて逆方向に走る。
ムサシは一瞬レナードを見てしまう。
それだけの隙があれば十分だ。
俺は、一瞬で間合いをつめ、ムサシの腹に剣の柄を叩き込む。
やつは刀を抜くが、その間合いでは窮屈過ぎてきれない。
そう、居合は彼らの距離で戦ったらダメなのだ。
だから、極限まで間合いを詰める。
もちろんこっちも剣を振れない。
だから、柄を叩き込むだけ。
しかし、殺すわけではないので、これで十分。
「卑怯な。これは剣の勝負ではないのか」
「そんな約束をした覚えはないぜ」
「くそっ、こんなもの剣の勝負ではない」
「だから、俺は勝負なんてしているつもりはない。
とにかく、この場を逃げるだけだ」
そう、奴と俺はまったく別のことを考えていたのだ。
だから、これで剣の優劣がつくわけではない。
「では、逃げさせてもらう」
俺はレナードのあとに続く。
ムサシは追いかけようとするが、腹にきついのを一発もらっている。
俺のスピードにはついてこれない。
そうやって、ムサシとの勝負を避けたのだった。
その後も何度か見ニアミスはあったが、戦うことはなかった。
やつは無抵抗の俺たちを斬るということはしなかった。
もちろん不意打ちなどしない。
あくまで正々堂々の勝負で俺たちを打ち負かそうとしたのだ。
だから、そのあとは戦うことはなかった。
そして、今、またムサシと再会したのだった。