フィリップ組キリシュ16
「それは残念です。
初めて暴れられるとおもったんですがね。
悪党相手なら何をしてもかまいませんよね」
「いや、ベルナさん。限度ってものがあります。
カシウスさん、わかっただろ。
ここは引いてくれ」
カシウスの目はもう抵抗する目ではない。
とりあえず、これで良しとしようか。
今後はベルナの方をなんとかしないとな。
「いやあ、お見事。
さすが双頭の虎のキリシュさんだ」
その時、後ろから黒装束の長身の男が出てくる。
こいつの気配は感じていなかった。
誰だ。
いや、知ってる。こいつは剣鬼ムサシ。
こいつも元S級冒険者だ。
そして、とんでもなくやばいやつだ。
「ムサシ、お前もこいつらの仲間か」
「ハハハ、ここに来るとおもしろいことがあるって聞いたんでな。
ビンゴだったな。
元S級、風斬りのキリシュさんとお手合わせできるなんてな」
そう剣を極めようとするものにもいろいろいる。
その中にはムサシのように厄介な奴もいるのだ。
いわば剣変態といえば良いのだろうか。
強いものと戦うことだけに意味を見出すのだ。
それは冒険者として誰かを守ろうとか、何かをなしとげようととかするのと全然違う。
ただただ最強だけを求めるのだ。
そのためには危険なこともあくどいこともやる。
何年か前に、こいつと会ったことがある。
双頭の虎のことを聞いて、俺らと剣を交えに来たのだ。
もちろん、俺たちは相手にしなかった。
こいつと戦ってもなんの意味もないからだ。
それなのに、こいつは手をかえ品をかえ、俺たちに挑んできた。
結局、レナードが相手をすることになったのだ。
確かに剣技最強を目指すだけあって、こいつの剣はすごいものだった。
レナードが防ぐのに手一杯という感じだった。
こいつの武器は居合。
距離をつかませないのだ。
レナードは致命傷こそ負わないものの、だんだん押されていった。
レナードに一撃が決まりそうになったとき、俺は手を出してしまう。
「いよいよ真打登場ですか」
その俺にムサシは嬉しそうな笑みを浮かべるのだった。