フィリップ組キリシュ15
カシウスはギアを上げる。
すばやく切り込んでくる。
それをギリギリで躱して、剣の柄で背中を突く。
こいつの武器は速さ、しかしこの程度では俺をとらえることはできない。
っていうか、俺の武器もスピードだからな。
でも、速さっていうのは脚力ではない。
それがわかっていないみたいだ。
速さっていうのは自由さ。
いくら速くても動きが直線的ではなんの意味もない。
動きが予測されてしまうのだ。
だから、攻撃に変化がないとならない。
カシウスの身体はそこまで柔軟ではないし、意外性もない。
「やめておけ。
お前の力では俺には勝てない」
「なんだと。いまのもギリギリじゃないか!」
わかってない。わざとギリギリなんだよ。
大きく避けると次の攻撃に答える。
最小限の動きで躱すのが正解だ。
速さを武器にするやつがこんなこともわからないのか。
こいつは攻撃の速さだけを追及している。
本当に大事なのは守りの速さだ。
上手く避けて、態勢の崩れた相手に攻撃する。
これが本当にスピードスターだ。
「くそっ」
また攻撃をしてくる。
ちょっと気持ちがゆるんでるな。
さっきほどの鋭さはない。
俺は、カシウスの腹にパンチを叩き込む。
あんまり、ここで血なまぐさいことはしたくないからな。
おれはもう芸能会社のマネージャーなんだからな。
まあ、ここの劇場主はもう血だらけのサイコパス状態なんだが。
カシウスは腹を押さえてうずくまる。
もう、わかっただろう。
俺とおまえの差が。
「なんだよ。
おまえは。なんちゃってS級じゃないのかよ」
「そうだな。レナードほどではないにしても、なかなかやるもんだろ。
命のあるうちに帰りな。
そうでないと、あのシリアルキラーがおまえのところに来るぞ。
そして、今のお前では勝てない。
あの素人にさえな」
「マネージャー、もう一人いるんですね。
わたしが追っ払ってもいいですか」
魔術師を殺したベルナがこっちに来る。
「いや、これ以上殺したりすると、ジュエルボックスに変な噂がたってしまいます。
ベルナさん、こいつは俺が追っ払います」
俺はベルナをたしなめる。
そう、俺はアイドルのマネージャーだ。
何よりもアイドルの評判も気にしなくてはならないのだった。