フィリップ組キリシュ12
「な、なぜだ。
俺はA級の拳士だぞ。
こんな素人のおっさんに俺の拳が効かないなんてありえない」
「そうですか?
わたしはね。
リム様の眷属なんですよ。
だから死なないんです」
恍惚とした表情でベルナは語りかける。
「だから、なんなんだ」
「そうケガをしてもすぐに治るし、バラバラになってもまた翌日には普通に戻るのです。
ほら、さっきちぎれた片足も、もうくっついています。
人間があこがれる不老不死というやつです。
うらやましいですか?」
「何を言ってるんだ」
拳士はベルナから離れようとするが腕をしっかりとつかまれて振りほどけない。
「わたしは、今まで楽団や劇団を騙して奴隷契約を結ばせていました。
それで、相当の恨みを買っていたみたいです。
自業自得ってやつですよね」
「だから、離せ」
「わたしは不老不死となって、彼らの前に出されました。
毎日殴られたり、斬られたり。
痛いですよ。
殴られたり、腕を落とされたり。
でも、死なないんですよ。
いや、死ねないんです」
もう、拳士は返事をするのも忘れて、この不気味な男の自分語りを聞いている。
「一度ね。
この劇場の屋根から飛び降りてみたんですよ。
ぐちゃぐちゃになったら、死ねるかなってね。
でも、死ねなかった。
川に飛び込んでも、汽車に引かれても。
死ねないんです」
「はなせ…」
拳士は無理やり離れようとする。
その拳から、鈍い音、たぶん骨が折れる音。
それも握力だけで押しつぶされる嫌な音だ。
このおっさんどんな身体をしてるんだ。
もしかして、あの4人と同じ化け物なのか。
しかし、そんな片鱗があったら、俺にはわかるはずだ。
「助太刀するよ」
そう言って魔術師がファイアーボールをぶつける。
そして、ベルナの身体はまた炎に包まれるのだった。