フィリップ組キリシュ11
近くでは拳士風の男の前にベルナが立っている。
手に楔のついたグローブをはめた筋骨隆々の男。
グローブをはめているのは、拳を傷めないため。
そのグローブから指が出ているのは打撃だけでないということ。
つかんで投げるとか関節技とかそういうのを使うということだ。
それに対しベルナは普通のおっさんだ。
中年に属する締まらない身体。
そして、背も高い方ではない。
身のこなしも、見る限り戦闘の経験があるとは思えない。
それなのに、ベルナはおびえた様子はない。
それどころか、獲物を目の前にした野獣の目で拳士を見る。
「おっさん、そこを開けろ。
お前には用はない。
殺されたくなければ、道をあけろ。
おれは、そこのキリシュと戦うのだ」
「あなたには用がないのかもしれないですが、こちらには用があるのですよ。
あなたがたはリム様、いやジュエルボックスの敵ですよね。
それならば、殺してもリム様が許してくれます」
「殺すだって。
殺されるの間違いだろ。
お前には俺は倒せないぜ」
拳士は笑う。
しかし、彼の言う通りだ。
刃物を使わない戦いでは、ジャイアントキリングは起きない。
あくまでラッキーパンチというのは、それなりの修練を積んではじめてできるもの。
刀なら万が一にもよけそこなうということはある。
しかし、殴りあいではその可能性はゼロに近い。
「どうでしょうか?」
ベルナはまったく負けることを考えていないみたいだ。
こういう戦いに身を置いたことのない人間には、実感がわかないのか。
「ではどこからでも、かかってこい。
まず、おまえの攻撃を受けてやる」
「そんなことしたら、すぐに殺しちゃうじゃないですか。
先に殴ってきてください」
ベルナは人差し指でこっちに来いというように挑発する。
何考えてんだおっさん。
しかし、このおっさん人をイライラさせることに関しては天才だ。
拳士は青筋を立てて怒っている。
たしかに、ベルナのおっさんってなんかイライラするんだよな。
拳士はベルナに殴りかかる。
それも一発ではない。
無茶苦茶に腕を振り回してタコ殴りにする。
そのパンチは腕を交差させてすべてベルナが受けている。
それなのに、ベルナは後ろに一歩も下がっていない。
だんだん拳士は疲れてきたのか、パンチが荒くなる。
「そんなものですか?
全然効きませんよ」
ベルナはそう言って拳士の拳をつかみ微笑むのだった。