A級冒険者のカシウス02
「おまえら、全員冒険者にはむいてねえ!
今すぐ、荷物をまとめて田舎に帰りやがれ!」
基礎練習でへとへとになったわたしらにキリシュは怒鳴る。
目の前の小男はそのころA級出会った双頭の虎のアタッカーだった。
もう一人のアタッカーレナードと並んで相手に切り込む。
ただ、レナードは勇壮な戦士であるのに対し。キリシュは小柄だ。
普通にみれば強いとは思わない。
たぶん、レナードの腰ぎんちゃくなんだろう。
上級冒険者は困難なクエストの依頼をさせる。
それ以外にギルドの仕事として、後進の指導に当たったりする。
冒険者として大事なことを教えるのだ。
それは剣の使い方であったり、魔物の退治の仕方。
野営や食事の方法。
冒険者は、いろいろなことを吸収しないとならない。
そうでないと、すぐにのたれ死ぬこととなる。
そのひとつが身体作りというわけだ。
今でなら、その重要さはわかるが、若いころはそんなことわからなかった。
ただただ、身体を鍛えさせられることに反発ばかりしていた。
早く剣や魔法を教えろというわけだ。
それにレナードは答えてくれた。
わたしらに剣を振らせてくれ、その悪いところをきちんと教えてくれた。
それなのに、キリシュは剣などまだ早いというだけで、きつい訓練をさせるのだった。
もしかして、こいつ剣とか使えないのではないか。
研修生の中ではそういう噂も立ち始めていた。
どうみても、キリシュはA級冒険者に見えなかった。
もしかしたら、わたしらでも勝てるのではってくらいに。
結局、レナードと並び立つと言われるキリシュの腕前は見ることができなかった。
そのあと、双頭の虎はS級冒険者となり、ドラゴンの巣へ挑んだ。
そこで、全滅し、キリシュだけが帰ってきたという。
噂ではレナードを犠牲にして逃げ帰ったということだ。
そのあと、キリシュは冒険者を廃業したと聞く。
冒険にでるのが怖くなったみたいだ。
確かに、龍の巣、王の墓、不死鳥の山。
挑んだものがすべて帰ってこないクエストはある。
わたしらに言わせると、そんなクエストに挑むのはバカだ。
それをロマンだというやつもいるが、そういうやつは早死にする。
目の前に、もっと楽でおいしい仕事があるのに、意味がわからない。
平原でさえ、死のスライムとかいう初心者殺しが出現するのだ。
わたしらもA級になるまでは、困難なクエストにも挑んだ。
それにしても無謀なクエストは敬遠した。
とにかく名前を売るまでは我慢が必要だと割り切った。
そして、この地位を得て、この美味しい仕事にありついたのだ。
わたしは、街を歩く。
そう、少女たちの誘拐のために、下見をしないとならない。
簡単な仕事だと思うが、念には念をいれないと。
わたしはそのために劇場のほうに足を運ぶのだった。