A級冒険者のカシウス01
わたしはカシウス。
A級冒険者パーティ黒刃金の一員だ。
今、大きな仕事に関わっている。
それは、奴隷売買だ。
極道組と準男爵エドガー・クレメンスが組んで行っている事業だ。
もちろん、この国では奴隷売買はご法度だ。
しかし、需要はあるし違法なものは金になる。
麻薬もそうだし、この仕事もだ。
わたしは、この屋敷の警護をまかされている。
王都で奴隷を売買するにはその置き場所と取引の場所が必要となる。
この屋敷の地下には、巨大な奴隷倉庫があるのだ。
まさか、貴族の地下にそんなものがあるとは思わないだろう。
それに、騎士団でさえ完全な証拠がないと貴族の屋敷に捜査権は及ばない。
しかし、何かあったときのためにわたしらを雇っているのだ。
口止め料込みでかなりの金になる。
わたしら黒刃金は他の冒険者とはちがう。
他の冒険者というのは脳筋が多い。
正義のためとか困っている人のためとか青臭いことを言っているお花畑なやろうどもなのだ。
危険な仕事を安価な報酬で引き受けたり、非合理なことをする。
しかし、わたしらは違う。
冒険者なんて身体が資本の仕事、一生できるものではない。
ある程度の年齢で金を貯めてリタイアするのが正しい。
それには危険が少なく報酬の高い仕事を受ける必要がある。
そういう仕事は、すこしブラックなことが多い。
今回の仕事もそうだ。
基本、貴族のお宅でお茶でも飲んでいればいい。
まあ、騎士団が来ることもない。
時々、奴隷の逃亡があるくらいだ。
そんなのは、簡単に制圧できる。
極道会のやつらでもそんなこと簡単だろう。
しかし、マフィアが貴族様の邸宅をうろうろするわけにはいかない。
そんなことをすれば、騎士団に目をつけられるだろう。
だが、わたしらなら、そんなことはない。
ただ、警備のために雇っているですむのだ。
とにかく、これは割のいい仕事だ。
ほとんど何もせずに給料が入ってくる。
その上、今回ボーナスももらえるらしい。
王都の劇場で歌と踊りを見せている少女。
それにご執心な金持ちがいるらしい。
その6人をさらうだけで、大金をくれるというのだ。
A級冒険者にとって、そんなの簡単なことだ。
なんか元武闘派のマフィアのフィリップ芸能事務所とかいうのが守っているらしいが、マフィアなど冒険者に比べたら子供みたいなものだ。
やつらはただのごろつき。
わたしらみたいな訓練を受けてはいない。
とにかく冒険者は最初ギルドで鍛えられる。
その訓練は半端ではない。
わたしは、あの頃鍛えてくれた憎き教官キリシュのことを思い出すのだった。