クレメンス家長男ヘンリー01
ばかにしやがって。
あの劇場主、許さない。
しかし、今話題のジュエルボックスとかいうのを見る方法はないものだろうか。
最近、学園でその話題で持ちきりだ。
もちろん下級クラス中心にだが。
学園は上級クラスと下級クラスに別れている。
下級クラスは一般庶民中心、上級クラスは王族貴族が学ぶところだ。
もちろん、校舎も別だし、クラスも別。
学園祭や運動会、クラブ活動程度しか接点はない。
しかし、そのジュエルボックスの話は上級クラスまで聞こえてきた。
なんでも同じ年くらいの少女たちが短いスカートで踊りながら歌うらしい。
まあ、下賤の女たちの下品な踊りなんだろうが、一度見てみるのもいいかもしれない。
それで、劇場に行ったのだが。
弱弱しいハゲのおっさんにチケットを拒否されたのだ。
そのあとむかついたのでぼこぼこにしておいたのだが、怒りはおさまらない。
かといって、こんなこと親に言うわけにはいかない。
そんな下賤の歌など必要ないとかえって叱られることになってしまうだろう。
今回のテストも成績が悪かったし、藪蛇になってしまう可能性が高い。
「ぼっちゃん、どうされました?」
庭で一人の男に話しかけられる。
A級冒険者カシウスだ。
今、ぼくの家に居候をしている。
あまりいいうわさを聞かないが、腕は確かだ。
なんか、お父さんと大きな仕事をしているらしい。
「ある劇場がチケットをくれなくてね」
「もしかして、あれですか?
ジュエルボックス」
「うん、一度みてみたいと思ってね。
庶民のことを理解するのも貴族のつとめだから」
「すごい人気らしいですね。
可愛い女の子が歌って踊ってってね。
ぼっちゃんがそうおっしゃるのなら、わたしが骨を折りましょうかね」
「うん。まあできたらでいいよ。
あの劇場のハゲ、なかなか頑固だったから」
「ま、わたしにはいろいろなルートがありますんで。
大丈夫ですよ。
わたしの手にはいらないものなんてありませんよ」
カシウスがウィンクする。
なんか、こいつは裏の世界との繋がりもあるって聞く。
期待しないで待っておこう。
「じゃあ、たのむよ」
「わかりやした」
そう言ってカシウスはおどけた感じで敬礼する。
その翌日の朝、ぼくの部屋にチケットが届けられたのだった。