ベルナ劇場支配人02
ここは殴られておくのがいい。
べつにこいつらくらいなら、瞬殺することもできる。
わたしは契約でリム様の下僕となった。
そのことにより、死ななくなったし、ケガをしてもすぐに治る。
人間の体というのは不思議なものだ。
たとえば、筋肉を増やそうとするなら、負荷をかけて筋肉繊維を切る。
そうすれば、回復するときにより強く太い筋肉繊維となる。
それと同じで、わたしの身体は治るたびに強靭になっているのだ。
リム様の眷属になってから、何度も殴られたり、斬られたりした。
そのたびに身体はダメージに強くなっていった。
それに、リム様の眷属になることで、身体能力も上がったのだ。
今なら、目の前のひよっこたちくらい皆殺しにするのも簡単なことだ。
だが、貴族というのは面倒なものだ。
こいつら程度は大丈夫だ。
しかし、準男爵とはいえこいつの親が出てくると、すこしやっかいだ。
「おまえ、今、笑ったな!」
下っ端がわたしの胸倉をつかむ。
かかった。
わたしは心の中で舌を出す。
「いえ、めっそうもない」
わたしはできるだけ、神妙な顔をする。
でも、口元に笑みを浮かべる。
この顔ってイライラするらしい。
この顔芸で決まりだ。
若者はわたしの横っ面を拳で殴る。
わたしは、できるかぎり派手に吹っ飛ぶ。
本当は全然効いてないんだけどな。
「申し訳ありません。
でも、用意することはできないのです」
わたしは飛ばされたところで、地べたに座って土下座をする。
そのわたしを残りのやつらが、囲んで蹴りを入れ始める。
ヘンリーを見ると、冷酷な笑みを浮かべて見ている。
しかし、全然効かないな。あくびがでそうだ。
「勘弁してください。
許してください」
わたしは顔を抱えて、泣き声を上げる。
我ながら素晴らしい演技だ。
わたしはやつらに見えないように舌をだす。
ばかすぎて、腹もたたない。
「覚えてろよ。
次までにちゃんと用意しておくんだ。
わかったか」
そう言って、蹴りは止まる。
もう。いいの。
ケガでもさせてくれたら、もっと強くなれるのに。
「ばーか」
ヘンリーはわたしにつばを吐いて、帰っていく。
わたしは彼らが帰ったのを確認して立ち上がり、普通に仕事に戻るのだった。