フィリップ組キリシュ01
「キリシュ、やばい。
無理だ逃げろ」
「レナード。おまえこそ逃げろ」
俺たちはS級冒険者パーティ双頭の虎のメンバーだった。
双頭というのは俺とレナードの力表す。
俺たちは龍の山というところに来ていた。
龍を討伐して、龍の宝を手に入れるためだ。
ついに頂上に着き龍王と対峙することになった。
俺たちの考えは甘かった。
S級冒険者と持ち上げられて、自分の力を見誤った。
それは龍王の前に出たとたん、脆くも崩れ去った。
そう、俺とレナードは死を覚悟したのだ。
一緒にここまで来た低位の冒険者は、蛮勇を奮って龍に襲い掛かった。
しかし、一瞬で肉塊となった。
その鋭い爪、牙に切り裂かれ細切れとなったのだ。
それを見ても俺たちは動けなかった。
その目で睨まれただけで死を覚悟したのだ。
この感覚はある程度の力量のあるものにしかわからない。
頭の中でいろいろなシミュレーションを行う。
そう、将棋の名人みたいに。
一瞬ですべての可能性を考える。
そして、名人は負けをみとめる。
参りましたと。
俺たちはその境地にあるのだ。
みっともわるく次の手をうつことができない。
「旋風のキリシュ。
おまえなら逃げられるだろう。
おまえが残って俺が逃げる。
それはない。
しかし、お前が逃げるのなら10%くらいの可能性はある」
レナードの言うのはわかる。
重戦士であるレナードが一瞬の隙を作り、俺が全力で逃げる。
たしかにこれなら少しだけだが道が見える。
逆はない。
でも、親友を置いて生きるなんてだめだ。
「俺にはできない」
俺はレナードと一緒に死のうとする。
完全な無駄死に。
しかし、それ以上に大切なものがある。
「だめだ。お前は生きろ。
そして、こんななバカなクエストに若いやつらを送り込まないようにしろ」
そう言ってレナードは俺を突き飛ばした。
そのとたん俺は自分のベッドで目が覚めたのだった。