白銀美桜10
契約のために劇場に行く。
支配人室にいくと先客がいるらしい。
「それじゃあ、いままでのギャラ準備しておけよ!」
大きな声が聞こえる。
そして、なんか人を殴る音。
ドアが開く。
「あ、もしかしてジュエルボックスさん?
この度は解放していただいて本当にありがとうございます。
ぼくたちはベルナにひどい目にあっていました。
もう、それが一生続くかと思ってたんですが、リムさんにすくっていただいて。
ぼくたちは楽団をやっています。
なにかできることがあれば声をかけてください」
そう言って若い人たちは帰っていく。
「リム、なんかした?」
「劇場のおじさんが知り合いだったにゃん。
だから、いろいろおねがいしたにゃん」
「そうなんだ。
リムちゃんって顔が広いんだね」
「妾の顔はそんなに大きくないにゃん」
「それじゃあ行きましょ」
美羽がそう言って支配人室に入る。
わたしもリムと一緒に部屋に入る。
ベルナさんは真っ青な顔になってる。
その上、顔にケガ、さっき殴られたのか?
なんか解放とか、いってたな。
さっきの人たちも悪い人に見えないし、ベルナさんもいい人みたいだし。
契約の行き違いかな。
「契約はもういいです」
ベルナさんはそう言う。
「え、じゃあ、わたしたちはこの劇場を使えないってことですか?
それは話が違います」
美羽は反論する。
いきなり、そんなこと言われても。
確かに契約を急ぐベルナさんを待たしたのは事実だけど。
「いえ、口約束で大丈夫です。
劇場代も報酬もいりません。
好きな時に使っていただいてかまいません。
もちろん、お手伝いもいたします」
どういうこと?
わたしたちはベルナさんが泣きそうな顔で言うことばをぽかんと聞いていた。
理解するのに時間が必要だった。