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それにしても、おかしい。
アイドルというのは夢を与える仕事だ。
戦争さえも無意味にしてしまう。
とんでもない力なのだ。
それは美羽たんが心から良いものを作ろうとしているから。
それなのに、今日みたアイドルグループの表情は死んでいる。
作られた笑顔、決められたダンス、心のこもらない歌。
これはなにかあるな。
わたしはカクオンとスケールにその旨を伝える。
彼らも同じことを思っていたみたいだ。
噂ではアイドルを食い物にするやつらがいると聞いたことがある。
もしかして、そういう組織が裏にいるのかもしれない。
これは調査しなければならない。
我が国でせっかく育ち始めたアイドル文化の芽が摘まれる。
そんなことは避けなければならない。
一度は国立のアイドル劇場を作ろうかと考えたこともある。
美羽たんを教師に呼んで、アイドルを育てるという計画だった。
しかし、それは美羽たんに止められた。
アイドルというものは作るものではない。
自由闊達な空気の中から生まれるものだってね。
もし、国の力でアイドルを作っても、面白いものはできないってね。
やはり、美羽たんのいうことは素晴らしい。
わたしはすぐにその計画をとりやめた。
そして、アイドルが自然に発生するよう見守ることにした。
そのアイドル文化が少しづつ育ち始めている。
わたしはそれに口は出さないつもりだ。
しかし、それを邪魔しようとするものがいるなら、話は別だ。
それはわたしが排除しないとならない。
わたしはカクオンにこの劇場を調べるように指示する。
それも秘密裡にだ。
とかげの尻尾斬りになってはいけない。
こういうのは裏にいるやつを根こそぎ退治しないとならない。
わたしはその報告を待つ。
これは皇帝として大事な仕事なんだ。
宮廷ではドルヲタ皇帝とか陰口をたたくやつもいる。
ひどいやつらはロリコン皇帝とかいうやつもいる。
違うのだ。
わたしは真剣に国のことを考えているのだ。
以前のわたしは軍に金をつぎこんでいた。
次に公共工事だ。
立派な建物を建てることが国力を誇示する手段と思っていた。
それから私自身の生活も派手だった。
皇帝は国の代表、それなりの恰好と生活が必要と思っていたのだ。
それらはすべて幻想だった。
本当の国民の幸せとは、国民たちが自由にアイドルを推せるような国。
それにつきるのだ。
さて、仕事だ。
わたしは机の上の書類に目を通していくのだった。




