スライム王 スラリム04
ぼくは当然握手会の列に並ぶ。
あの子に曲のこととか聞きたいし。
お金がいるんだったな。
ぼくはポケットの中の革袋を取り出す。
これは、あの教師がもっていたものだ。
なんかずっしりしている。
人間の街をあるくのにお金が必要なことがあるから持っておいたんだ。
これは胴とか銀だろ。
こんなものに価値をつけるなんて、ぼくには意味がわからない。
草原で草でも食べてのんびりしていたら、それ以上に必要なものはないじゃないか。
いや、もうひとつ必要なものがある。
べつに生きるために絶対必要ってわけではないが。
ときどき、この子たちの歌が聞けたらもっと最高だ。
とくにこの子の作った曲、毎日でも聞いていたい。
この子に伝えたい、最高だったよって。
あ、ぼくの番だ。
「今日は来てくれてありがとう」
「うん、まずこれ」
ぼくは革袋ごと渡す。
どれが大銅貨かわかんないし、ぼくには必要のないものだ。
「多いよ」
詩織は袋の中から大銅貨を一枚とろうとする。
「いいんだ。投げ銭こみで。
それよりすごくよかったよ」
ぼくは手を差し出す。
「ありがとう」
そう言って詩織はぼくの手を両手で包み込む。
なんかいいな。
時間が静止したような感じだ。
「また来てください」
わりと棒読みみたいなしゃべり方、でもうれしい。
「絶対来るよ」
ぼくはそう言って帰ろうとする。
「ちょっと待って」
詩織はぼくを呼び止める。
「ん、なに?」
「これ、よかったら」
「何?」
「ミュージックボール、シングル。
耳に当てて」
小さなガラス玉みたいなのをぼくに渡す。
ぼくはそのガラス玉を耳に当てる。
さっきのライブの歌が流れ出す。
すごいや。
「ありがとう。
次も絶対絶対絶対くるね」
ぼくは詩織に大きく手を振ってその場を離れるのだった。