暗殺者モーリス04
それにしても簡単な仕事になりそうだ。
要人の暗殺ではなくて、民間人の暗殺。
それも、露出度の多い舞台をやっている。
観客、スタッフなど出入りも多い。
たしかに警備や両国の兵士が護っている。
しかし、どいつも素人同然だ。
俺たちから完全に守り切るにはライブなんて言語道断だ。
帝都公演だけにするべきだろう。
まあ、民間の芸人なんて暗殺しには来ないだろうと思っているのだろう。
暗殺は簡単。
問題は逃げ道だ。
今回は、差し違えるような案件ではない。
わからないように殺して抜け出す。
それも帝国右翼組織の証拠を残してだ。
それには帝都のひとつ前のライブで事をおこすのがいい。
俺は仲間に合図を送る。
それまでは大工として、ライブを成功させる。
今はやつらに信用させること。
信用してくれると、成功率は上がる。
俺はプロだ。
簡単な仕事だからと言って、雑な仕事はしない。
できるかぎり成功確率を上げて暗殺に臨むのだ。
「ねえ、おじさん」
少年が俺に話しかけてくる。
「なんだい」
俺は返事をする。
このガキは警備のために雇われているらしい。
おっさんと女とじじいと子供の4人組だ。
なんでもジュエルボックスの大ファンらしい。
「あなたは誰?」
ガキは目を細める。
「俺は大工だ。舞台の設営をしている」
「ふうん。
でもなんか殺気みたいなのを感じたんだけどな」
「そんなわけないよ。
たぶん気のせいだよ。
徹夜で作業を終わらせないとならないから、気が立ってただけだと思うよ」
「気のせいか。ごめんねおじさん。
仕事を続けてください」
そう言ってガキはむこうに歩いていく。
勘のいいがきは嫌いだよ。
それにしても、やつはただものではない。
気をつけないとな。
俺は、殺気を消すようにし、作業を続けるのだった。
勘のいいガキはきらいだ。