白銀美桜03
出発の日となる。
なんかわくわくするな。
ツアーなんてむこうの世界でもやったことない。
帝都でも受け入れられるかな。
みんなも落ち着かない感じだ。
なんか修学旅行のような気分かも。
わたしたちは中央の一番豪華な馬車に乗り込む。
わたしたちのロゴが派手に入ったデコトラならぬデコ馬車だ。
恥ずかしいくらいの装飾なんだけど、これも宣伝になるっていうから仕方ない。
そして、その馬車のまわりを固めるのは、王国と帝国の騎馬隊だ。
なんでも、親善使節になにかあったら国際問題になるらしい。
なんかものものしくていやなんだけど、仕方がない。
外の風景を楽しみながら、お菓子とか食べておしゃべりする。
少し乗り心地は悪いけど、なんとか耐えられるレベル。
舗装はされていないけど、道は広くてならされている。
なんでも、前の帝国軍が攻めてきたときに整備されたみたいだ。
投石器とか工場兵器、物資を運ぶのに整備された道が必要とのことだ。
馬車は詩織がタイヤを発明してくれたから振動がましみたい。
他の馬車はもっと揺れるみたいだ。
馬車で移動するときは馬車酔いに気をつけないとダメみたいだ。
案外、わたしはそういうの平気だから大丈夫。
あと、こっちの世界にも飛行機みたいなものがあるらしい。
飛空船っていうらしいんだけど、魔法の力で飛ぶみたいだ。
でも、安全性が向こうの飛行機くらいじゃないらしいので、こういう時は使えない。
それに乗れて数十人ってところだし、あんまり荷物は積めないみたい。
その上、飛空船を目の敵にする鳥の魔獣がいるみたいだ。
フェニックスとかいう鳥で、飛空船を見ると墜落させに来るってことだ。
遅いけど安全性は陸路のほうが数倍高いとのことだ。
それでこういうのんびりした旅をしているのだ。
でも、旅の間もわたしたちは一緒。
馬車の中でいろいろな話し合いを行う。
ライブの構成とかだけじゃなくて、今後のこととか。
そういえば、劇場でやらせてもらうようになってから、こんなにゆっくり話ができることなかったかも。
もちろん、向こうの世界に戻ることも考えなくてはならないんだろう。
でも、いちばんやらなくてはならないことは、この世界で最高のパフォーマンスをやること。
たぶん、それは、向こうの世界に戻れたとしても、役に立つことだと思う。
みんなも同じ気持ちだった。
とにかく、全力でアイドルをすること。
それしかできないし、それがわたしたちのすべてだ。
最初は路上ライブから始まって、いまではこんなに推してくれる人たちもいる。
むこうでは解散の話の最中だったんだ。
これはわたしたちに与えられたチャンスなんだ。
だから、一生懸命にやる。
わたしはそう思っている。
わたしたちの馬車の中での会話は次第に熱を帯びていくのだった。