暗殺者モーリス02
今回の指令は、親善使節であるパフォーマーを殺すこと。
それも帝国の極右派を装って。
帝国には、この和平条約を良く思わないものもいる。
今回の条約には俺でさえ、首をひねる部分があるのだ。
まず、対等の条約であること。
軍事力の差から言ってこれはない。
帝国侵攻は一度退けられただけ。
それも末端の中隊1000人の敗北のみだ。
まだ、6軍団ある将軍たちは参戦していない。
それと、この和平条約は帝国側から言い出したこと。
本来は王国側が戦争を避けるために考えることだ。
それもいろいろ譲歩する前提でだ。
もちろん、そういう動きがあれば我が国も黙ってはいない。
俺たち諜報員をフルに使って阻止しにかかるだろう。
今回の条約は帝国側がいろいろと譲歩している。
将軍の何人かは皇帝に詰め寄ったらしい。
我々が王国を滅ぼして見せますと……。
そのとき皇帝は震えながら言ったらしい。
「そんなことをしたら帝国が滅んでしまう。
あいつはそういう存在なのだ」
あれだけ傲慢で有名だった皇帝は妙におとなしくなっているみたいだ。
もしかして、八本剣とかいうのにそんなやつがいるのか?
ただ、共和国の調査では、八本剣や宮廷侍従長というのは見掛け倒しのやつらばかりだと聞いている。
すこし強いだけのやつらで、軍を相手どる力はないとのことだ。
さて、今回の仕事は簡単だ。
なんせただのアイドルグループの旅程を襲うんだからな。
要人の場合に比べて、赤子の手をひねるよりたやすい。
要人の場合はその近くのもぐりこむのが難しい。
それに何人もの影武者を立てる。
今回、影武者はなさそうだし、もぐりこむのに国家レベルの警戒はなかった。
現にもう2人のエージェントがスタッフとしてもぐりこんでいる。
ただ警備はまったくないわけではない。
だが、相当金がなかったのか?
平和ぼけしているのか?
戦士らしいのはひとりだけで、あとは女にじじい、子供だけ。
帝国からも王国からも護衛の兵士はついているが、アイドルたちの近くにいるのはそれだけだ。
和平がなったから危険はない。
そんなうまくはいかない。
現に俺は共和国のために動いている。
他国がじゃまをしてくるとか考えないのか。
そういう意味でも王国は国としては未熟すぎる。
民が力を持った国は強くなる。
だから、今のうちになんとかしないとならない。
帝国が後ろ立てとなったら、共和国の自由にはならなくなる。
とにかく、この親善使節は成功させてはならないのだ。
俺は手筈どおり、アイドルグループの一行の中に紛れ込むのだった。