暗殺者モーリス01
「それではモーリス君、健闘を祈る。
なお、この通信石は自動的に消滅する」
通信石が煙を出し始める。
俺は、それを床に投げつける。
通信石は爆発して砕ける。
べつにいちいち爆発させる必要はないような気がするが、指令はいつもこれをする。
俺は共和国のスパイ、モーリスだ。
他の国にもぐりこんで諜報活動をしている。
ただ、スパイというのも少し違う。
俺のチームは、ただ情報を仕入れるだけではない。
ターゲットを極秘裏に殺す。
つまり、暗殺をするのが俺たちの仕事。
今回、サウスレッド共和国にもたらされたのが、ガニア帝国とパトリック王国の和平条約のニュースだ。
我が国はパトリックに革命が起きたことにより、ガニアがパトリックに侵攻すると読んでいた。
以前から王国と帝国は仲が悪かった。
戦争まではいかないにせよ国境付近で常に小競り合いを起こしていた。
その王国は革命により混乱する。
そうなると内政を立て直すのが優先され、軍の立て直しは後回しにされる。
その隙をついて帝国は侵攻する。
もちろん王国には帝国と退ける力はない。
結局、王国は負ける。
ただ、革命軍は自由を掲げている。
つまり、帝政よりも共和国の民主主義のほうが相性がいい。
王国は我が国に助けを求めるはずだった。
そうなると我が国も軍を派遣する大義名分ができる。
王国の後ろ盾になって、王国を支配することができるのだ。
といっても帝国のように自国に取り込むのではない。
経済的に支配するのだ。
王国はバカな王のせいで経済的に破綻している。
経済的に劣る国が自由競争の中に放り込まれたらどうなるか。
大国の経済支援という鎖に繋がれるしかなくなるのだ。
そういう読みだったのだが、目論見はあっさりと覆された。
まず、王国軍が帝国軍を退けたのだ。
死んだときいていた八本剣と宮廷侍従長たちが革命政府についていたのだ。
彼らは八面六臂の活躍で王国を簡単に退けたのだ。
それが原因かどうかはわからないが、ガニアの皇帝が和平条約を締結するといいだしたのだ。
そうなると我が共和国は不利な立場となる。
昔、王国の軍師リュウビが作った3国が鼎立するという体制が崩れてしまうのだ。
我が国は技術や文化に秀でているが、帝国や王国には資源がある。
資源によっては他国からの輸入でしか手に入らないものもある。
特に飛空船の中央部に使われているレアメタルは王国でしか産出されない。
それを盾に外交を行われると、我が国も譲らなければならないケースも出てくる。
それで俺たちの仕事だが。
この両国の和平条約の邪魔をすることだ。
それも、できるだけ早く。
そのため、最終手段と言われる暗殺チームに声がかかったのだ。