マネージャーキリシュ20
「違うんです。
国境付近の帝国軍が全部撤退したらしいです」
「まさか。そんなことが」
「ええ、奇跡です。
帝国にわたしたちの国の脆弱性を見抜けなったみたいです。
王国の時と同じ軍事力があると思ったのでしょう」
「それならいい。
だいぶ時間は稼げるようだ。
一度引き上げたら、次の派遣の準備まで時間が必要だからな。
一年は大丈夫だろう」
「それも必要なくなるかもしれません。
ウィラードさんの情報では、帝国は王国との不可侵条約を探っているみたいです」
「それは本当なのか」
「ええ、たぶん」
「戦争は回避できるんだな」
「そうなるよう努力します。
交渉はわたしの仕事です。
少し八本剣や馬より速く走る歩兵隊のことは使わせていただきますがね」
なんか、マルクスくんも大統領らしくなってきた。
帝国と外交で渡り合おうというのだ。
とにかく、これで王都は守られたようだ。
「わかった。
がんばってくれ」
俺はそう言って大統領室をあとにする。
さて、今日はもう一つやらなければならないことがある。
フィリップ社長のところにいくことだ。
今回の戦争で倒れてから考えたことがある。
それは、エンターテイメントを提供するのも重要だが、その前に安心してライブを楽しめる平和な世界が重要であることだ。
そのためには、この国を強い国にすることだ。
そうすれば、他の国も安易に攻めてこようとは思わないだろう。
この国は今変わろうとしている。
みんながこの国を良い国にしようと頑張っているのだ。
それが、今回の奇跡にも繋がったのだろう。
ただ、この先も奇跡に頼るわけにはいかない。
だから、俺もやれることをやろうではないか。
いろいろ考えている間にフィリップ芸能事務所の前まで来る。
俺はドアを開け、受付に挨拶する。
思えば、ここも元は極道の事務所だった。
しかし、今は小ぎれいなオフィスとなっている。
それも全部ジュエルボックスのおかげだ。
今、フリップ社長は部屋にいるらしい。
俺は懐の辞表を確かめて、社長室に向かうのだった。