ガニア帝国皇帝クロノス06
「おまえが皇帝にゃん?」
幼女はわたしを指さして言う。
「はい、わたしが皇帝クロノス2世です。
リムさま、お久しぶりです」
わたしは精一杯の笑顔で答える。
こいつの気分次第で俺の命は消える。
「おまえなんか知らないニャン」
リムさまは、少し考えた後で言う。
そう、この幼女は昔のことなんて覚えていないのだ。
わたしが踏みつぶした蟻の行列の生き残りを覚えていないのと同じ。
わたしなどそれくらいの存在なのだ。
「ところでなんの御用ですか。
帝国はもう暗黒の森へ入っていないはずです」
「そうにゃん。
パトリック王国を攻めるのをやめるにゃん」
「どうしてですか?
王国はあなたには関係ないはずでは」
王国を取ることまで止められると我が国は終わってしまう。
恐ろしいが反論してしまう。
「王都には、妾の一番大切なものがあるにゃん」
「大切なものって?」
「お前に言う筋合いはないにゃん。
とにかくやめるにゃん。
そうでないとおまえらを全滅させるにゃん」
有無を言わさずってやつだ。
わたしには拒否することはできない。
それより、こいつは本当に帝国を滅ぼすだろう。
「わかりました。
王国への侵攻はやめます」
そう言うしかない。
そして、本当にやめるしかない。
しかたない。別の方法を探ろう。
パトリック王国は革命を起こした文官が大統領だという。
彼らと手を結ぶことを模索してみよう。
もちろん話し合いでだ。
わたしたちが手を結ぶことによって、サウスレッド共和国と対抗できる道が探れるだろう。
サウスレッドに主導権を握られると、経済的な植民地とされてしまう。
そうならないために手を結ぶのだ。
善は急げだ。
とにかく、戦争はやめさせよう。
それから外交官を派遣しよう。
「ところで、このお菓子はもらっていくにゃん」
幼女はテーブルからケーキスタンドを持って、部屋から出ていくのだった。