ガニア帝国皇帝クロノス05
あの幼女にとってわたしとはケーキにも劣る存在であった。
後で部屋を出て、確認をしたら城の大半は破壊されていた。
原初の悪魔リム、調べてみると、破壊神と呼ばれる魔王だということだ。
ただ、やつに遭遇したものはほとんど命を落としてしまうため、情報は少ない。
竜の山の王リヴァイア、世界樹の上に住む鳥の王フェリクス、草原の王スラリム、王墓の守護神ノスフェラトゥと並び語られる。
彼らに遭遇したら死を覚悟しろと言われる。
あの日からわたしは傍らのテーブルにお菓子に用意し、欠かせたことはない。
それほど、恐ろしかったのだ。
もちろん、暗黒の森の開発は中止した。
それどころか、暗黒の森に入ることを禁止した。
これは防衛のためだ。
やつに逆らうとこの国くらい簡単に滅亡してしまう。
やつはそういう存在なのだ。
ガニア帝国が豊になるためには、南に侵攻するしかなくなった。
その南のパトリック王国が倒された。
いま、国内は混乱しているらしい。
この機を逃してはならない。
あの破壊神に比べたら、人間の国なんて簡単なものだ。
わたしはすぐに第六師団を進軍した。
あのアズロー将軍だ。
武にも知にも長けた男。
やつならやってくれるだろう。
あとでサウスレッド共和国が異議を唱えるだろう。
国際法違反を盾に取ってな。
しかし、侵略した王国の一部を返還すれば押さえられる。
やつらは正義のためじゃなく、あくまで利でうごいているんだからな。
さて、そろそろ戦果を報告してくるころだ。
それにしてもさっきから外が騒がしい。
なにか大規模な城の普請とかあっただろうか。
まわりの護衛に聞くが、彼らも知らないと言う。
こういうことが以前にあったような気がする。
まさかな。
今回、暗黒の森には一歩も入っていないはず。
護衛のひとりを確認行かせる。
その時、一際大きな音。
そして、王室の扉が吹っ飛ぶ。
どういうことだ。ありえない。
わたしは壊れたドアを凝視する。
まさか、まさか、まさか。
あの時の恐怖がよみがえってくる。
わたしの身体ががくがくと震える。
「皇帝どうされたんですか?」
側近がわたしに声をかける。
「やつだ、やつだ、やつだ」
わたしはうわごとのように繰り返す。
そして、その時、壊れたドアからあの幼女が入ってくるのだった。