ガニア帝国皇帝クロノス04
あの時は本当に恐ろしかった。
いつの間にかわたしは小便を漏らしていた。
それくらい必死に命乞いをしたのだ。
ただ、幼女に言葉はつたわらなかった。
わたしをすくったのは、傍らのテーブルにあったあるものだった。
「それは何にゃん?」
わたしの近くに来た時、幼女はテーブルの上を指さす。
そこには3段のケーキスタンドがあった。
ちょうどおやつの時間だったのだ。
わたしは甘いものに目がない。
そのケーキスタンドの上には色とりどりのクッキーやケーキが並べられていた。
「お菓子です」
「んーーーー美味しそうにゃん」
欲しそうに指を咥える。
目が輝いている。
「もちろん、全部差し上げます」
「わかったにゃん。
いただくにゃん」
幼女はケーキタワーに近づいて、クッキーをひとつ手に取る。
そのまま、かじりつく。
「おいしいにゃん」
幼女はとろけそうな笑顔になる。
「本当にもう暗黒の森は荒らしません。
だから、命だけはお助けください」
わたしは床に頭をこすりつけるようにする。
敵意のないことを示すためだ。
いままでわたしは帝国の人間の生殺与奪を握ってきた。
わたしの命令ひとつで人の命なんてどうにでもなったのだ。
今はわたしは幼女の前で生殺与奪の権利を握られていた。
「わかったにゃん。
それじゃあ、殺さないでおいてやるにゃん。
感謝するにゃん」
「ありがとうございます」
「絶対に暗黒の森を荒らしたらだめにゃん。
もし、次に同じことをしたら、その時はお前らを滅ぼすにゃん」
「わかっています。
二度とあんなことをやらせません」
幼女は踵を返して帰っていく。
しばらくして、またこっちに戻ってくる。
「これはもらっていくにゃん」
そう言ってケーキスタンドを手にして帰っていくのだった。
わたしは呆然とそれを見送るしかできないのだった。