幕間話:瀟洒で優雅なパーフェクトメイドの耽美的午睡
SIDE:リナリアです。
「う、むぅ…………」
隣から聞こえる、かわいらしい呻き声に、意識が覚醒した。
布団を被ったまま横を見て、お嬢様が、眉を顰めて眠っていた。
………やはりというか、あまり夢見がよろしくない様子だ。
お嬢様は、時折、酷く、うなされている時がある。
もう5年も前になるか、お嬢様が屋敷の階段から転げ落ちて重傷を負い、一週間ほど続いた昏睡状態から回復した後、お嬢様はかなり変わってしまった。
昔から屋敷のメイド────政府軍重鎮のバカがコネとカネで送り込んだバカ────にいびられていたせいで歳不相応なほどに大人しく、自己主張のなかった人格はどこかに消し飛び、天真爛漫というか好奇心旺盛というか、良くも悪くも悪くも自分の欲望に忠実な、研究者めいた人になってしまった。
それになんというか………その、たまに非常に暴力的になるというか、とても良家の令嬢とは思えない暴れ方をするというか………
………前に一度、お忍びで街に出かけたときに、お嬢様の髪色を見て喧嘩売ってきたチンピラたちを複雑怪奇かつ醜悪なオブジェに変えた時、少し濡れたのは内緒の話だ。
なんだか我ながら変態的な気もするが、アレは正直ずるいと思う。
お嬢様がカッコよくて可愛くて最強なのが悪い。
「………いや、そうじゃなくて」
あの一週間で何があったのかは、私にはわからない。
今ではそれなりにマシにこそなったが、私は、あの日、戦場で奥様と旦那様に拾われたあの日からずっと、無知で無意味で無価値な、何の能もないガキのままだ。
だが、こんな私にも2つだけ言えることがある。
1つは、お嬢様に起こった変化が、きっと望ましいものだったことで。
もう1つは
「………お嬢様は、相変わらず、かわいらしいですねぇ」
私が、目の前で眠る小さな主に、恋をしてしまったことだ。
………自分でも、この感情がイレギュラーなものであることくらいは、理解しているつもりだ。
お嬢様は私の事を友達だと言ってくれたが、それでも、私たちの関係は主と従者で、私たちは7歳差で、しかも同性だという事実は、決して揺るがない。
道から外れた恋であることなど、百も承知だ。
だが、それでも、お嬢様が愛しくて、愛しくて愛しくて愛しくて、たまらない。
星明りのない夜の空を梳いたような黒と鮮血のような赤の水玉の髪が。
深く、暗い色をした、紅玉のような目が。
強く抱きしめれば壊れてしまいそうな華奢な体躯が。
よくできた人形を思わせる白磁の肌が。
すべやかな唇の感触が。
自信に満ち溢れた天真爛漫な笑みが。
梔子の花のような香りが。
お風呂で髪を洗う時に、シャンプーが目に入らないように、可愛らしいお顔を思いっきり顰めるのが。
気まぐれな猫のような足取りが。
お二人に自分の発明を紹介するときの自慢げな表情が。
私の名前を呼んでくださる、あの、鈴の鳴るような、溌溂とした可愛らしいお声が。
時折見せる、陰を帯びた、無理をして浮かべたような笑みが。
どうしようもなく愛らしくて、脳が焼けそうになる。
「ぬふ~………これがわたしのじつりきなのだ~………」
私の想いなどまるで気にも留めず、私がどれだけ我慢しているのかも知らないで、こうやってのんきに寝ているのを見ると、襲って、穢して、理解らせたくなる。
嗚呼、いっその事、本当に。
「今この場で、食べてしまいましょうか」
「ぬ………りなぁ………?」
「はい、リナです。お嬢様、もう、お目覚めになられますか?」
「むぅ………もうちょっとだけ、ねる」
「承知いたしました、お嬢様」
寝ぼけまなこをクシクシこするお嬢様に微笑みかけて、お嬢様に抱き着かれた。
暖かな人のぬくもりと、トクントクンと緩やかに脈打つ心臓の鼓動が直に伝わってきて、頭がクラリとする。
………この人は、本当に、どこまで私を煽れば気が済むのだろうか。
これでまだ幼女だというのだか、まったく、末恐ろしい主だ。
私が我慢しきれなくなる前に対策を練らなければ、そのうちうっかり食べてしまいそうで怖い。
可及的速やかにお嬢様と恋仲になるか、さもなくば、お嬢様から襲っていただけるように仕向けなければ、こちらが性犯罪者になってしまう。
とりあえずは。
「………図書の小説に、年上メイドと令嬢のラブロマンスでも置いてみますか」
手始めにお嬢様の性癖を歪ませるべく思考を回転させつつ、心地よい空間に身を委ねた。
…………本を並べてからしばらくの間、私を見るとお嬢様が挙動不審になったので、作戦はうまくいったのだろう。
ぶい。
実は私、百合が好きなんですよ()
というか、TSって百合に分類されるんですかね?
私的には百合で問題ない気もするんですが、教えてくださいエロい人(露骨なコメ稼ぎ)