第7話:ジュジュの受難
ジュジュッ、キレたッッ!!
「お、俺のジャバウォッキーがぁーーーっ!?」
壁に激突して煙を噴く試作機を前に失意体前屈。
最近手を出した、私の魔法によるバイクの再現実験。
我ながら割と会心の一作だったのだが、盛大に失敗してしまった。
………原因は、わかってる。
だが、
「………工業化とか、どうすりゃいいんだよ」
いくら機体の設計が完璧でも、肝心の機体を構成するパーツがヘボけりゃ話にならない。
アトラクナクアのように比較的低速で動かすならともかく、内燃機関のような、高圧・高温によって莫大な負荷が発生するようなものを作るには、今の私が入手できる素材では限界がある。
………一応、パパンが軍の伝手で入手してくれた、民間に流れる資材の中じゃ最高グレードに近いものを使っているけど、私の欲する基準には今一歩届かない。
この国の銃火器は、前世のソレに比べてもかなりの高威力、高精度を誇るが、それはあくまでも魔術という、この世界独自の技術によるものに過ぎない。
ネジやボルト、鉄板、板バネ、銃身など、細かなパーツの精度は決して高いとはいえず、それ故に、複雑な機構を再現しようとすれば無理が出る。
よくも悪くも、この世界は、魔法というほとんど万能の術理に頼りすぎている。
そのせいで、科学や工業が未成熟なのだ。
まったく。
「アームズフォートごっこ、やりたかったのになぁ………」
そこまでいかなくても、ACモドキとか作って、「力を持ち過ぎたもの、秩序を破壊するもの、プログラムには不要だ」とか、「あんなものを浮かべて喜ぶのか、変態技術者どもが!」とか「消えろイレギュラー!!」とか言ってみたかったし。
………ん?そういやあの体が闘争を求めるシリーズ、10年越しに最新作が出るって話だったよな?
待って?私、新作が発売される前に死んだ?
ルビコンで全てを焼き尽くす黒い鳥する前に死んだ感じ?
………うっわー、ないわー。
マジでないわー。
萎えた、マジ萎えた、ガン萎えした。
モームリ、マジでムリ、死にそう。
というか吐きそう。
「………今日はもういいや。気分じゃないし」
最悪だ。
ほんっっっと最悪だ。
部屋でグータラしよ。
DIYした明かりの魔道具を消して、一階へ続く階段を上がる。
もうやることないし、今日は久しぶりに図書室でも行ってみるか。
前回読みかけてたアルハザードの小説が、結構いい感じだったっけな。
アレはなんというか、こう、上手く言い表せないけど、妙に懐かしい感じがした。
この世界、なんでか知らないけど、世界共通言語なる摩訶不思議な存在があるおかげで、外国の本も割と普通に読めちゃうのよね。
………言語って、それが育まれた気候や風土、文化に大きく影響を受けるものだから、なんでそんな奇怪極まりないものができたのかは非常に気になる。
というか、魔法とかいう限定的に物理法則を無視した挙動を取る術理が存在する時点で、この世界にはどこか作為めいたものを感じる。
………案外、神様的なサムシングが本当に世界を運営していたりして?
………クトゥルフ的な、見た瞬間にSAN値が消し飛んでアバーーっってなってロストするような邪神じゃないことを祈っておこう。
あるいは抑止力的に、絶許邪神ブッコロコロビームでも開発しておくか。
うん、我ながらいいアイデアだ。
時間が出来たら開発に着手して。
「………おん?」
なにか、人の言い争うような声が聞こえた。
一瞬、パパンとママンが喧嘩でもしているのかと思ったが、その可能性は頭からすぐに消し飛んだ。
あの2人が喧嘩とか考えられないし考えたくないし、そもそもパパンが光の速さで全面降伏するから喧嘩にすらならないんだよね。
………もしや、コレ、昼ドラ的な展開なのでは?
昼下がりの屋敷、メイド、何も起きないはずがなくってやつでは?
………正論で言えば、こんな覗きみたいなことしちゃダメってのは、わかってる。
だが、だがしかし!!
人は正論のみにて生きるに非ず!!
人生には娯楽が、愉悦が必要なのだ!!
そしてそれらを最も効率よく摂取する手段is修羅場観察!!
なにより私は今をときめくおにゃのこ!!
出歯亀したって許される!!
ポーチから呪々胎符を召喚!暇潰しに作った《敵陣中の蛇》を発動!!
ダンボールを被っている限り、私に対する周囲の注目は最小限に抑えられるのだ!!
フヒヒヒー、人生初修羅場、覗いちゃうゾ。
私、ジュジュ、大人の階段を上りま。
「がふっ」
「うわっ、きったな。ちょっと、アンタのせいで、靴、汚れちゃったじゃないの。せっかくお父様に送ってもらったのに………これ、ベンショーしなさいよ?どうせあの忌みガキの相手して、たんまり金貰ってんでしょう?」
「いいですね、イザベラさん。ついでに私に新しい鞄を買ってもらっても?」
「あっ、ドーラずるーい!!それなら私もヴァルゴのネックレスを買ってもらおっかな?」
「じゃあ私は」
「あなた達ねぇ………ま、こいつのカネだしどーでもいっか」
螺旋階段の裏で、腐ったゴキブリのクソみたいな顔のメイドにみぞおちを蹴っ飛ばされたリナリアが嘔吐していた。
………おっふ。
予想してた修羅場と別のタイプのものをお出しされたでござるよ。
気分的には、アレだ、デリヘルで人魚姫呼んだらインスマスがウーバーされた的な、天井裏に忍者じゃなくてネオ・サイタマの夜を駆けるスレイヤーな方のニンジャがいた的な。
………いや、違う、落ち着け私。
少なくとも、放っておく選択肢はない。
とはいえ、今の私にできることもない。
あたりまえだ、相手は女とはいえ大人が5人、こっちは9歳児が1人、話にもならない。
「ん~ん?………アンタ、それ、何よ?薄汚いウジムシのくせして、いっちょまえに髪飾りなんかつけちゃってさぁ?」
主家の令嬢に馬鹿な真似をするほど馬鹿ではないと思いたいが、少なくとも、こいつらの善性には期待できそうにない。
「なによ、アンタ、いつの間に男作ってたの?………いや、アンタみたいなザコブス狙うような物好きなんて、そうそういないか」
「わかりませんよ、ドーラ。世の中にはブス専なる奇特な趣味の輩がいると聞きますし」
「………こ、れは、お嬢、さまの」
「あぁ?………なぁんだ、あの忌みガキかよ。先越されたのかと思って損したわ。………ま、気色悪いガキと気色悪いザコならお似合いか」
「もーめんどーだし燃やしちゃいません?ついでに顔の目立たないところでも焼いてやれば、いいお灸になりますし」
「あっ、それいーじゃん。んじゃ私焼くねー」
………幸い、私が見ていることには気づかれていないはず。
ここはこの場を離れて、パパンとママンを呼んでくるのが正解だろう。
そうと決まれば、全速力で逃げ。
「………いや、ないな」
なるほど、確かに逃げた方が賢い選択なのは、間違いない。
こんな理性の働いてないチンパン以下の馬鹿に自分からちょっかい掛けても、ロクな事にならないのは目に見えてる。
だが、それでどうなる?
リナリアと連中の間にどんな因縁があったか知らないが、これがかなり長期に渡って、かつ執拗に続けられたものであることくらいは、私みたいな低能でもわかる。
原因の一端が私にあるなら、私は当然の義務として、リナリアを助けなければならない。
………それになにより、もう、抱え込むのも、業を背負うのも、ごめんだ。
深呼吸1つ、ここ数年でカンストまで鍛え上げた幼女ロールプレイスキルをフル稼働させて。
「ねぇ?なにしてるの?」
《敵陣中の蛇》を解除、そう声を掛けて、場の空気が面白いくらいに硬直した。
まったく、幼女の1人くらいでそんな大げさな。
アホ面晒して固まるアホどもの間を通り過ぎて、カティを助けおこS。
「お、お嬢様?今日はもう、人形遊びはされないのですか?」
「? しなきゃダメだった?」
「い、いえ!ただ………いつもは旦那様かこのゴ………リナリアが呼びに行くまで部屋から出てこないので、珍しいなと思って」
「そう。じゃ、リナリア借りてくね………ってリナリア、貴女ケガしてるじゃない!血もこんなに出て………」
床に頭を叩きつけられた拍子に切ったのか、けっこうダラダラと血を流していたリナリアの額にハンカチを当てて手早く止血。
何故か俯いたまま震えるカティの頭に、常備していた包帯(色々使えて便利なのだ)を巻いてやり。
「そうだ、そこのメイドさん、いくつか聞いていい?」
「へ、わ、私ですか?」
ボス猿っぽかったメイドを指差して、面白いくらいにびくってしてくれた。
なるべく人畜無害な笑みを心掛けつつ、至近距離まで近づいて。
「ねぇねぇ、忌みガキって、どういう意味なのかな?」
「っ!?」
あからさまなくらいに顔色を悪くした馬鹿が後ろに下がり、開いた距離をすかさず詰める。
「相手が引いたらそれだけ詰めろ、泣きを入れたらもう一発」古事記にもそう書いてある。
ポーチから、こっそり呪々胎符を取り出して、握りしめ。
「《大力の巨神》」
渾身の斧刃脚を、またぐらに叩き込んだ。
カブラカン………マヤ神話に語られる、山1つを気まぐれに崩す怪力の悪神の名をもじったこの魔術は、見た目通り幼女な私の身体能力を、ちょっとした重機並みに引き上げる。
そこに前世で齧った中国拳法を組み合わせてやれば、この通り、幼女でも十二分以上の殺傷力を得られるのだ。
………おまけに言うなら、性別の都合上イチモツが付いていないだけで、股間なんぞある意味内臓が露出した急所であることに変わりはないわけで、要するに。
「ぎっ、ぁああぁあああああっ!?!?」
「痛いじゃすまないよね、って話でね?」
クソみたいな面を歪ませながら床を転がるバカが一匹。
しっかしどーしたんだろ、急に床に這いつくばって、ブレイキンなんか踊っちゃってさ。
ナウでヤングでイケてる若者の間じゃ、床ペロするのが最近の流行りだったりするのかね?
「ねぇ、そこの人は、そのあたり、どう思う?私、お屋敷からあまり出ないから、外の常識に疎くって」
「お、お嬢様!?急に何を」
「何をもクソもねーよ、ブス。てめぇらが陰でコソコソヒソヒソクソみてぇなツラしてクソみてぇな事やって気持ちよくなってんのは知ってんだよ、このクソビッチどもが」
「………お嬢様?」
「ああ、それともアレか?俺が幼女だから何言ってもわかんねぇとでも思ってタカ括ってたなテメェら。残念でした、ジュジュちゃんはスーパー美幼女なので全てさっくりお見通しなのだ」
リナリアが変なものでも見たような顔になってるけど、後回しだ。
イモムシみたいに丸まってうめくアホの頭を踏み踏みしつつ、異物でも見たような顔の馬鹿どもを見渡し。
「そこの赤髪、確かお前、リナリアの顔を焼くと、そう言ってたな?」
「そっ、それはその、そうっ、言葉のあやというやつで」
「知ってるか?人を撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけなんだとよ」
ポーチに左手を突っ込み、取り出したのは、長さ50センチほどの複雑な機構を取り付けた鉄棒。
カブラガン状態ゆえに妙に軽く感じるソレに、魔力を込めて。
「なんでも溶接機。本来なら金属部品同士の溶接に使う道具だ。………だが、まぁ、テメェのそのおキレイな顔面をそこらの壁と引っ付ける役にも立つだろうよ」
「………っ、あ、ひぃっ」
「安心しろ。ジュジュちゃんは優しいからな、ゆっくりじっくり丁寧丁寧丁寧にくっつけてやるよ。………まさか、大の大人が、吐いた唾を呑むような真似は、しねぇよな?」
「やっ、やだっ、助けっ」
1歩、2歩、距離を詰め、灼熱した鉄棒を振りかぶり。
「ジュジュ!!一体何の騒ぎ……どういう状況だ、これは?」
「あっ、パパ」
「旦那様!?」
ちくしょう、命拾いしやがったな。
「はぁ………」
「も、申し訳ございません、お嬢様」
「いいよ、別に。というか悪いのはリナリナじゃないし」
「ですがっ」
「もうやめっ!リナリナは謝るの禁止!!これ、お嬢様命令ね?」
「………承知いたしました、ジュジュお嬢様。それと、私はリナリアです」
乙女チックが止まらなくなりそうな感じの私の部屋。
ベッドでゴロゴロしてたら、リナリアがまた謝ってきた。
なんと私、人生初(前世は考えないものとする)の謹慎中なのです。
いやぁ………流石に、メイド1人を半死半生の目に遭わせたのはやり過ぎだったみたいで、パパンとママンに大目玉喰らっちまったのだ。
まぁ、リナリアを虐めてた馬鹿ども+数名のドグサレ脳みそが屋敷の金を使い込んでいたことが発覚、憲兵さんたちにドナドナドーナされていったので、結果良しとしよう。
………ちなみに、私に下った判決は、5日間の謹慎と、その間の、作った道具の全回収、ついでに危険そうなアイテムのボッシュートだった。
とっておきの秘密道具をいくつかナイナイされちゃったのはキツいけど、おおむね問題なしといって差し支えないだろう。
むしろ、問題なのは。
「………」
さっきから、私を見つめては目が合いそうになると視線を逸らす、メイドさんである。
なんというか、すごく犬っぽいというか、ペタンってなった犬耳と巻かれたしっぽの幻像が見えるというか。
………というか、パパンが私とリナリアに同時に謹慎を命じたのが、すっごくきな臭く感じる今日この頃。
さてはパパン、アレだな?リナリアのメンタルケアを私に任せる算段だな?
妙にバツが軽いのもそういうことだな?
まったく………
「いい、リナリア?私は今回のアレコレについて反省も後悔もまったくしてないの。ちょっとやりすぎたなとか罪悪感とかみじんも抱えてないし、何なら物足りないくらいだからさ」
「お嬢様、流石にそれはいかがなものかと」
「あーあーお客様ー正論パンチはお控えくださいお客様ー」
「???」
真顔で突っ込んできたリナリアにそう返して、不思議そうな顔してコテンと首をかしげるリナリア。
あざとい、このメイドあざとかわいいぞ!!
私よりも年上なのに、可愛さで圧倒されてる気がする!!
………いや、よく考えたら、リナリア、今、16とかそこらか。
今をときめく花の女子高生だもんな、そりゃ可愛い
「………お嬢様は」
「うん?」
「お嬢様は、どうして、私を助けたのですか?」
「えっ、逆にあの状況で助けない選択肢ある?」
「………普通は助けませんし、助けるにしても、大人を呼ぶのが一般的かと」
「むぅ」
ジト目のリナリアに正論を食らってしまった。
確かに、普通の9歳児があんな場面見せられたら、泣くか逃げるかの2択になるだろうな。
私だって、中の人がいなきゃどうなってたか。
とはいえ、中の人問題を馬鹿正直に話すわけにもいかない。
だから。
「ねぇ、リナリア。リナリアが私のお付きになってから、どれくらいになるのかな?」
「………行き倒れていた私を旦那様が拾ってくださってから、もう4年になるかと」
「だよね。さらに言えば、その4年間、私とまともに話してくれたのは、パパとママを除けば、リナリアだけだった。………私はね、リナリア。リナリアの事を、ずっと友達だと思ってたんだ。友達が困ってたら助けるのは、当たり前のことでしょ?」
「お嬢様。私はただのメイドです、友達などと」
「じゃ、今から友達って事で。これ、お嬢様命令ね?」
「………かしこまりました、お嬢様」
なんだか納得いってなさそうな顔のまま、リナリアが頭を下げる。
まったく、まじめなのは美徳とはいえ、それも過ぎると色々困るな。
リナリアのほっぺたを両手で挟み込んで。
「そ~れムニムニムニ~~!」
「ちょっ、お嬢様っ、やめっ、むぎゅっ」
リナリアの柔らかほっぺたをムニムニして、いつものパーフェクトメイドはどこへ行ったのか、「あぅあぅ」と情けない悲鳴(?)を上げるリナリア。
可愛い、やはりこのメイド可愛いぞ。
というか、なんで9歳児の私よりほっぺがプニプニなんですか?
不思議だ、人体の神秘だ。
「とりあえず、私は今からリナリアの事をリナって呼ぶから、リナも私の事をジュジュちゃんと呼ぶように。わかった?」
「前半はともかく、後半に関しては了承しかねます、お嬢様」
「むぅ………どうしても、ダメ?」
「そんな上目遣いしてもダメなものはダメです、お嬢様」
「………わかった。じゃあ、リナ、今日はもう寝よっか。どうせやることないし」
「………承知いたしました、お嬢様。では、私はこれで」
「《ウシロデデカギシメル》」
ペコリと頭を下げたリナが退室しようとしたので、オリジナル魔法でカギをかけてみた。
椅子に座ってから鍵を閉めるのが面倒くさくて開発した、私謹製の便利魔法。
………うまい事悪用すれば部屋の外から鍵を開けられる犯罪者垂涎の魔法なのは、ナイショの話。
あれもこれも人の業が悪いんだ、わたしわるくないもん。
「………お嬢様、これは一体、どういうおつもりですか?」
「んー?私はただ、昔みたいにリナと一緒に寝たいなってだけだよ?」
「承知しました、と言いたいところですが、そもそも私とお嬢様が一緒に寝たことってありませんよね?」
「そうだね」
「………申し訳ありませんが、いくら同性とはいえ、主従が褥を共にするのは流石にいかがなものかと思われ」
「でもさ、リナ。よく考えてみてほしいんだけど、リナと私って、パパに自室での謹慎を命じられてこの部屋にいるわけじゃん?」
「………そうですね?」
「その状況で部屋から出るのって、命令違反になったりしない?」
「………それは、そう、ですね」
実際のところは、パパンは単に傍付きのメイドと一緒に部屋に放り込んだだけだろうけど、真実などさして重要じゃないのだ。
世界は観測する者の主観にゆだねられ、全ては無常、ただ解釈だけが残る。
ゆえに私がこうであると思えば私にとってはそうなのだ。
This is 完璧な理論武装!!
というか幼女な私の稼働限界点がそろそろ近いのであまり抵抗するなください!!
中身はともかくボデーが幼女なので夜更かしできないのだ!!
「では、私が床で寝ますね」
「………ふぇ?」
「お嬢様と褥を共にするのは畏れ多いので、私は床で寝ます。ああ、心配は無用です。どんな環境でも10秒あれば眠れるように調整してありますので」
「いやいやいやいや!!なんで!?なんでそうなるの!?」
「………?ああ、なるほど。私に寝ずの番をしろという事ですね。承知いたしました、お嬢m」
「違う違う、そうじゃ、そうじゃないの」
斜め上方向にぶっ飛んだ目の前のメイドに、思わず変な声が出る。
というか10秒で眠れるってなんだ?
アレか?リナってばひょっとして、軍の特殊部隊的なところに所属してるのか?
バトルメイドさんなのか?
つーかこのままだと、私が友達呼ばわりした年上のメイドさんを床に寝かせる鬼畜系幼女になってしまう!!
うごごごごご!
唸れ灰色の脳みそ!
「じゃっ、じゃあ私も床で寝るから!!」
「………はい?」
「リナが一緒に寝てくれないなら、私も床で寝るって言ってんの!」
「お嬢様。名家の令嬢が床で眠るのは、いかがなものかと存じます」
「知らない。言っとくけど、リナがこれ以上ムダな抵抗するなら、私もなりふり構わないからね?思いっきりヤダヤダヤダヤダって駄々捏ねるからね?」
「………」
ベッドの上にポテンと座ったままの私と、すっっっごくメンドクサイものを見るような目のリナ。
互いに見つめあうことしばらく、リナが、諦めたようにため息をついた。
「………承知いたしました、お嬢様。我ながら、まったく、厄介な人を主にしてしまったようですね」
「いいでしょ?私かわいいし」
「否定は致しません」
やれやれとわざとらしく嘆くリナに笑って手を取り、二人してベッドに倒れこむ。
柔らかい体の感触と、仄かに香る、金木製の花のような、甘い匂い。
冷え症気味なのか、少し低めの体温が、妙に心地いい。
むぅ………まずいな。
圧倒的幼女力による人力湯たんぽでアニマルセラピーならぬ幼女セラピーを図るつもりだったが、逆にこっちが眠くなりそうだ。
まぁ、別にいいか。
遠隔操作で明かりの魔道具を消して。
「おやすみ、リナ」
「おやすみなさいませ、お嬢様」
「………ねぇ、リナ」
「………どうかなさいましたか?お嬢様」
「大好きよ、パパとママの次くらいに」
「………私もです、お嬢様。この世界の誰よりも」
震える体を、ぎゅっと抱きしめて、目を閉じる。
ゆったりとした呼吸音だけが聞こえるベッドの中で、意識が徐々に薄れ、温かい射干玉に散逸した。
一方、その頃。
「………おかしいわね、もうとっくに、お仕事の時間は終わっているはずなのだけれど」
リナリアへの謝罪と日頃の労いのため、ちょっとした茶会の準備をして待ち構えていたリュドネラは、1人待ちぼうけていた。
もういっそ開き直って設定投下。
ジュジュちゃんの一人称が安定しないのは、ちゃんと理由があります。
馬鹿ドブカスメイドあいてにムジヒッ!!してたのは単純に共感能力が低いからですね。
「撃っていいのは~」とか言ってますが、ただ単に、自分を大切にしないせいで他人も大切にできなくなってるだけです。
いびつかわいいですね。