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クリスマス回:ギガント・ターキーとパーティーの時間

久し振りの投稿がクリスマス回ですまない。

チキン冷めちゃった。



「そういや、もうクリスマスか」


 屋敷の窓の外に延々と降り積もる雪を眺めていたら、、そんな事に気づいた。



「クルシミマス?」

「アヤメ、拷問された人みたいになってる」

「クリリンノコトカ?」

「シオン、それはもはや別のナニカだと思うよ」

「くりとり」

「言わせねぇよ!?」

「あうっ」


 バカ言いかけたリナの頭を叩いて黙らせ、


「あ~………なんて言ったらいいのかな、遠いところのお祭り?みたいな奴でさ。とある宗教の偉い人の誕生を………いや、それはまた違うんだったか?」


 確か、元はローマの冬至を祝う日だったのが、キリスト教文化圏に呑まれて変化したものだったはず。


「まぁともかく、宗教関係のイベントでね。家を飾りつけたり、ケーキとか七面鳥の丸焼きとかご馳走を用意するの」

「という事は、お嬢様もその宗教を」

「信じてないよ?」

「信じてないんですか?」

「少し説明が難しいんだけど………私が住んでた国じゃ、その宗教はそこまでメジャーじゃなかったからね」

「えぇと………つまり、自分が信仰してもいない宗教にかこつけてお祝いしていたと?」

「そういう事」

「………なんだか、聞けば聞くほど変な世界ですね」

「ま、どこに行っても歪みはあるものだよ。人間が人間である限り変わんないんじゃないかな」


 読んでいた本に栞を挟み、安楽椅子から立ち上がり、


「それじゃ、行ってくるよ」

「おでかけ?」

「おつかい?」

「そんなとこかな」

「何しに行くんですか?」

「ちょっとチキン取ってくる」











「イヤーーーッ!!」

「コケーーーッ!!」

「コケッ、コケッ」

「コッコーー!!」



 潜伏していた木の枝から落下しざま、棍棒の一撃で獲物の首を砕いた。

 クソデカ断末魔を上げて絶命した丸鳥と、悲鳴を上げて逃げていく群れの連中。

 真っ白い羽毛に覆われた、体長70センチほどの、丸々肥え太ったソレを担ぎ上げる。


「ふむ………これくらいのサイズならちょうどいいかな?」


 肉のつき方も申し分ないし、あまり大きすぎても食べきれない………というか、そもそもオーブンに入らないだろうし。

 この数日で見かけるようになった種類の魔物だったので気になっていたが、思っていたよりも数段狩りやすかった。


 羽毛が雪に紛れる保護色になっているようなので冬にしか姿を見せない種類の気もするが、場合によっては常食するのもアリだろう。

 ………まぁ、味がどうなってるか分からないので、そこは試してみる必要があるが。


「冷蔵庫にジャガイモとニンジンはあったから………ポテトサラダとニンジンのグラッセも作っちゃおうか」


 シャンメリーとケーキも欲しいが………まぁ、そこは妥協しよう。

 砂糖は貴重だし生クリームは入手できないし。

 保存の利くクッキーと樽のぶどうジュースはあったから、それで我慢してもらおう。

 背中の背負子に、獲物を詰め込み、



「んじゃ、そろそろ帰りま」



 ズドン!!と大砲の直撃めいた轟音と共に、私の眼前に巨鳥が降ってきた。











「ぬぉおおぉぉっ!!」

「クゥルルルルィイャックゥゥウウウゥゥゥウ!!!!!」



 杭打機めいて撃ち込まれた嘴の一撃を、真横に全力で転がって回避。

 機械化した両脚の膂力に物を言わせて跳躍し、サスケよろしく木の幹を蹴って退避。


 雪上を暴走機関車よろしく猛烈な勢いで追いかけてくるバカ鳥を、副腕で照準し、



「イィイイヤァアアンクックゥウウゥゥッッ!!!!!」

「だぁっ、駄目だこりゃ!!」


 全弾顔面に命中させて、ダメージがまるで通っていない。

 というかコイツ、足はやっ、


「《怪力の巨神(カブラガン)》!!」


 防御用の魔力障壁を全開で発生させ、視界を埋め尽くす白い暴威。

 肉と骨が軋む音がして、勢いよく積雪に叩き付けられる。

 追撃の蹴りをゴロゴロ転がって避け、酸欠気味の脳をフル回転させる。


「殺しきるのは、無理か」


 かといって、逃がしてくれるほど甘い相手ではないだろう。

 屋敷まで逃げかえるつもりだったが、普通に追いつかれるな。

 ならば、


「こっちだ、ついてこいクソバード!!!」

「ヒィイイーーーハァアァァーーーーッッ!!!」



 奇妙な絶叫を上げて突っ込んできた怪物を躱し、屋敷とは別方向へ走り出す。


 私の記憶が確かなら、この近くはアレの縄張りだったはず。 


 ズドドドドド!!と重機か何かのような足音が迫る中、懐をまさぐり、


「目ェ回しとけ!!」

「クエッ!!」


 後方に投擲したスタングレネードが爆ぜた。

 他の魔物を引き寄せるリスクのせいで使えなかったが、事ここに至ってはむしろ好都合だ。

 追加の手榴弾を投げて、疾走し、




 ─────冬の森の棲み切った空気に、夏場の漁港のゴミ捨て場のような、凄まじい悪臭が混じった。



 視界の端、何の変哲もない木の幹に塗りたくられた黄金の粘液。


 即座に右へ大きく跳び、直後、真っすぐ突っ込んできたクソ鳥が、文字通り木っ端微塵に木を粉砕し、




「ブッ、コロォオオォォォス!!!!!!」




 巨大なシャチホコに顔面を掴まれ、叩き伏せられた。


 この寒いのに全身から蒸気を噴き上げる、25メートルはある金色の巨体に、何故か人間のソレに似た四肢を持つ、異形の怪物。


 『ガンギマリ』という言葉がこれ以上なく相応しいくらい血走った眼の化物が、天を仰ぐように咆哮し、



「こっ、こけっ」

「ブブブチ血コロコロココロコロコロスロスロロス処すススコロコロコロス殺すコロスブッコロス!!!!!!」



 金切声と、形容しがたい打撃音。


 巨岩のような拳がクソバードにめり込む度に、真っ白な雪が血と臓物の赤に染まっていく。


 一方的な殺戮の現場に背を向けて、私はとっとと逃げ出した。









「ふぃ~………つかれたじぇ~い」

「お疲れ様です、お嬢様」

「ありがと、リナ。帰ってそうそう悪いんだけどさ、ジャガイモとニンジンを洗って茹でてくれる?」

「かしこまりました」


 以前遭遇して為す術なく撤退するハメになった怪生物、『シャチホコ』。

 「バケモノにはバケモノをぶつけんだよ!!」の精神でアイツの縄張りまで誘導してやったが、想像以上に上手く行った。

 あの怪物、相当に縄張り意識が強いらしく、延々と追い掛け回されたからよく覚えている。


 嫌な記憶を脳裏から振り払って、エプロンをつけ、



「さて、やりますか」


 久し振りのご馳走と行こう。













「お~うぃっしゅあめりくりすます♪お~うぃっしゅあめりくりすます♪お~うぃっしゅあめりくりすます♪えんはっぴ~にゅいや~♪………ん?なんか間違えたか?」



 毛を抜いて血を抜いて内臓ブッコ抜いてその他諸々下処理した丸鶏を掃除し、内部を洗って油を塗り、塩胡椒その他香辛料をまんべんなく塗り込んでいく。

 リナに用意してもらったジャガイモを中に詰め込んで、串とタコ紐で腹を閉じ、形を整える。


 余熱しておいたオーブンにブッ込んでこれで良し。


 器に卵の黄身と酢と塩をぶち込み。様子を見ながら油を少しずつ加えて混ぜていく。

 

「ふむ………こんなもんか」


 胡椒を少し入れて味を調え、マヨネーズ完成。


 続けてピクルスを微塵切りにし、茹でた角切りのニンジンとジャガイモを器に投入して混ぜ、ポテトサラダ完成。

 できればキュウリを入れたかったが、ないものは仕方ないか。

 余った卵白は………



「挑戦するか、スフレケーキ………?」


 いや、でもあれメレンゲ………うぅむ………


「あら?お嬢様、そんな顔してどうされました?」

「………リナ、ケーキ食べたい?」

「ケーキですか?食べられるのならそれに越したことはありませんが………」

「シオンとアヤメも喜んでくれると思う?」

「それは………喜ぶと思いますが」

「だよねぇ………リナ、食糧庫から重曹とレモン1個、取ってきてくれる?」

「はぁ………かしこまりました、お嬢様」



 腹括れ私、ここで引いたら女が廃る。


 泡立て器を右手に、卵白をボウルに移し、砂糖を加え、



「ふにぃいいいいいっっ!!!」



 混ぜる混ぜる混ぜる混ぜる混ぜる混ぜる更に混ぜる!!!



「お菓子作りは!!根性と体力!!!!」


 うににに唸れ私のゴールデンハンド!!!


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!!!」

「とってきましたよって………何やってるんですか?」

「メレンゲ!!!」

「な、なるほど?」

「あとリナ!レモン絞っておいて!!!」

「はい」


 無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!


「WRYYYYYYYYYYYY!!!!」


 メレンゲ完成!!

 勝ったッ、第三部ッ、完!!!


「ふぅ………リナ、レモンの搾り汁ちょうだい。あとフライパン温めておいて」

「あっはい」


 出来上がったメレンゲにレモン汁をいくらか加えて更に混ぜ、別のボウルを用意してホットケーキミックスと牛乳を混ぜ混ぜ。

 メレンゲをおよそ4分の1ほど加えてグルグル混ぜたら、残りも加えて泡を潰し過ぎないように注意して混ぜる。


「リナ、フライパン温まった?」

「はい」

「オッケー、ありがとねん?」

「どういたしまして」


 温度は………まぁ、こんなもんか。


 生地をおおよそ4等分してフライパンに乗せ、フタをして極弱火でじっくり焼いていく。

 椅子に、腰を下ろして、



「………疲れた」

「お疲れ様です、お嬢様。お茶をお淹れしましょうか?」

「お願い」


 パタパタと足音を立てて去っていく気配。

 目を閉じて、自分の心音に意識を向ける。



「スフレケーキ、か」



 ………前世、妹たちの病状が悪化して入院したきりになる前に、頼まれてチーズスフレケーキを作ったのを思い出す。


 確か、ニュースか何かで流行ってるのを見た2人にせがまれたんだったか。


 もう一度作って欲しいと言われて、「また今度」と約束して、しばらくして2人揃って寝たきりになって。


「………約束、守れなかったなァ」

「どうか、されましたか?」

「うぅん、なんでもない」


 後ろから抱き着いてきたリナをいなし、差し出されたお茶を啜る。

 微かなリンゴの匂いと、優しい甘さが疲れた体に染みわたる。

 思わず、溜息が零れ、


「ってやっべ!!ケーキ焦げちゃう!!!」

「ちょおっ、何やってんですかお嬢様!?」










「メリークリスマス!!」

「めりくり?」

「めりめり?」

「うん、それは別の奴だね、シオン」


 あり合わせながら精一杯飾り付けたリビング。

 コテンと首を傾げたシオンとアヤメを抱きしめてワシャワシャする。

 あ~、心がピョンピョンするんじゃ~。


「お嬢様?」

「なんでもないよ」


 不思議そうな顔のリナにそう返して、2人を席につかせ。


「それじゃ、頂きます!!」

「いただきます!!」

「んぐっ」

「ちょっ、シオン!?」



 勢いよくチキンに齧り付いたシオンが、そのまま喉に詰まらせた。














「にゅふふふ………」

「うにゅにゅ………」

「おやすみ、シオン、アヤメ」


 奇妙な呻き声(?)を零す2人をベッドに寝かせ、そっと寝室を出る。

 そのまま、リビングのソファーに突っ伏して、


「ふぅ………」

「お疲れ様でした、お嬢様」

「リナもありがとうね?」

「いえいえ、お仕事ですから」


 しかし、久しぶりにご馳走を食べた。

 後片付けとか色々憂鬱になるが………まぁ、明日やればいいか。

 ………というか、


「………リナ、大丈夫?飲み過ぎてない?」

「大丈夫に決まってるじゃないですか」


 にへらと笑うリナの眼は、明らかに据わっていた。

 ………うん、リナったら、いつの間にかスパークリングワイン飲んでたのよね。

 つーか普通に酒臭いし。

 


「あんまり飲み過ぎると明日辛いよ?」

「大丈夫ですって」

「そう?」

「えぇ」


 私の胸元に、甘えるように頭を擦りつけるリナを、なんとなく抱きしめる。

 妙な沈黙に身を任せる事しばらく、



「………お嬢様」


 ぽつり、とリナが呟いた。


「なぁに?」

「お嬢様は、その………大丈夫、なのですか?」


 ………。


「………正直、わかんないかな。ただ、今はあまり、深くものを考えないようにしてる」

「………そう、ですか」

「うん。それに、今の私にはやる事がたくさんあるからね。この森の探索もしなきゃいけないし、シオンとアヤメを守らなきゃいけないし、そのためには今よりももっとずっと強くならなきゃいけない。色々考えるのは、その後でもいいでしょ?」


「…………そう、ですね」


 綺麗な青色の髪を、優しく撫でて、


「今日はもう寝ちゃおうか。明日の事は明日やろ」

「はい」



 椅子から立ち上がってリビングの明かりを消し、寝室へ直行。

 そのままベッドに潜り込んで。


「………リナ?」

「はい、リナです」


 なんでかリナも一緒に潜り込んできた。 


「………どしたの、リナ」

「いいじゃないですか、一緒に寝たって」

「そりゃまぁ、特に問題はないけど」

「寒いんです、一緒に居てください」

「………まったく、しょうがないなぁ」


 甘えるように抱き着いてきたリナを抱き返す。

 酒精混じりの、あまい、金木犀のような匂いと、温かく柔らかな肢体の感触。

 暗闇の中、目を閉じて、



「おやすみ、リナ」

「おやすみなさい、お嬢様」



 幸か不幸か夢は見ず、



 翌朝、いつの間にか入り込んできたシオンとアヤメに潰されて目が覚めた。






ゲスト解説


ナイトメアクリスマスバード

説明:クリスマスの時期にのみ姿を現す鳥型の魔物の幼体。危険性は限りなく低いし肉も非常に美味。成長するとナイトメアクソデカバードに進化するが、それでも悪夢の中では弱者の部類。某透き通るような世界観で送る学園RPGに出てくるアへ顔の鳥を臭くしたのを想像してください。



シャチホコ


説明:クソデカいシャチホコに人の四肢が生えたような魔物。『ブッコロス』『ブチノメス』『処す』『殺す』などと叫びながら襲ってくるが、人語を理解しているのかは不明。地味に口から火炎放射も出せるし木登りも出来る。弱点は泳げないくらい。縄張り意識が非常に強く、自分の縄張りを犯されると全力で撲殺しに来る。

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