第2話:魔法幼女マジカル☆ジュジュ爆誕!!
というわけで、第二話いくのじゃ。
「うだぁ~………」
「お嬢様、はしたないですよ」
「しらない」
「………まぁ、お気持ちはわかりますが、それはそれとしてお行儀が悪すぎます」
「………わかった。ゴメンね、リナリナ」
「お仕事ですから。それと、私の名前はリナリアです」
お屋敷の大書庫、お子様サイズの読書机に座ったままお礼を言って、リナリア………深く澄んだ青色の髪のメイドさんが、ペコリと頭を下げた。
この3日ほどの間、ご飯と寝るとき以外の時間をほとんど調査に費やしていたのだが、見事に失敗に終わったのだ。
というか。
「『劣等髪は魔術が使えない』って何なのよぉ~………」
「と言われましても、『そういうものだから』としか………」
「………まぁ、そうだよね。理由なんてわかるわけないもんね」
私が転生したこの世界には、ファンタジーの例に漏れず、魔術が存在していた。
存在していたのだが、この魔法、使える魔法の属性は髪色に依存するのだ。
赤髪なら火属性、青色なら水属性、緑なら風、茶髪なら土属性の魔術が使えて、それ以外の属性はどう頑張っても使えない。
んじゃ、お前の使える魔術は何なんだよって?
………この世界では、ごくまれに、先に挙げた4種類以外の髪色をした人間が生まれるのだが、そういう連中を纏めて劣等髪と呼ぶ。
理由は簡単、魔術が使えないからだ。
この世界に、魔術が使えない人間の居場所はない。
私なんかもそうだが、特に黒髪は凶兆とされ、運が悪けりゃ嬲り殺しにされるとかなんとか。
ちなみに、前世じゃチャラ男がよくしてるイメージのあった金髪は、この世界では吉兆とされる。
なんでも、4属性以外の中で、唯一金髪だけが光魔術を使えるからなのだとか。
守りに出れば死病も致命傷も即座に癒し、攻めに転じれば文字通りの光速の攻撃で敵を撃滅する、最強の魔法。
歴代の使い手のほぼすべてが女性だったそうで、光属性の使い手の事を聖女と呼んだりもするらしいが………まぁ、私には縁のない話か。
ともかく、どの属性の髪色にも属さない私は当然魔術の行使などできず、それが気に食わないので何とかする方法はないかと探し回っていたのだが………
「ま、使える方法があるなら、もうとっくにやってるか」
確かに、私の感覚からすれば、この世界の文明はかなり遅れている。
少なくとも、現代日本の上流階級の生活は、この世界の一般的な人間からすれば、まさしく天上人のソレに等しいだろう。
だが、この世界の人間は、間抜けではない。
未熟な医療技術に未発達な科学知識、人口の過半数にいきわたる教育も無ければライフラインもセーフティネットもクソもないが、それでも、間抜けじゃない。
私の以前、劣等髪と呼ばれた無数の人間がいて、何とかそこから脱出しようとした無数の死にぞこないがいて、挫折し、あるいは折られ、出ようとした頭を叩き潰された、無数の杭たちがいたのだろう。
それでも見つからなかったのならば、私に見つけられるはずもない。
それなりの教育を受けはしたものの、私のオツムの出来など、たかが知れている。
そういうのは、まだ見ぬ天才様に任せるべきだろう。
広げていた大判の本を、ぱたんと閉じて。
「………本当にありがとね、リナリア。助かったよ」
「お嬢様にそう言っていただけたなら僥倖です。………では、私は屋敷の仕事に戻りますね?」
「うん。ゴメンね、迷惑かけちゃって」
「いえいえ、お仕事ですから」
ペコリとお辞儀をして去っていくリナリアを見送って、椅子から立ち上がる。
………ずっと座って作業してたせいで、体がバッキバキだ。
背伸びを1つ、机の上を見渡して。
「………やっべ」
出しっぱなしにしてた本が、死屍累々と言わんばかりに散乱していた。
………一瞬、リナリアを呼ぼうとも思ったが、この程度で迷惑をかけたくない。
不幸中の幸いというほどでもないが、引っ張り出してきた本の大半は、本棚の低い位置にあったはず。
深呼吸1つ、服の袖をめくって。
「よし、やるか」
幼女が1人、本を担いで歩き出した。
「うにににぃ~………」
届かない!!
あとちょっと!ほんと、あとちょっとなのに、届かない!!
他の本は全部片づけて、ラスト一冊がしまえない!!
本棚が高いせいでっ、あとちょっとが!!
クソっクソっクソっ!!
ワッツアヘル!!
ホーリーシット!!
ゲラウヒー!!
………いや、ゲラウヒは違うか。
「落ち着け………落ち着け私………素数を数えて落ち着くんだ………」
そう、素数は1と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字………私に勇気を与えてくれる。
1……2……いや、1って素数だったっけ?
どうなんだろ、わからん。
じゃなくて。
「クソっ、今だけはこのぷにぷにボディが恨めしい………」
せめて私にあとちょっとだけ身長があれば!!
もしくはパワーがあれば!!
「う、にゃ、あぁあぁあああ………っ!!」
ぷにぷにの手で全力で脚立を押して、ピクリとも動かない。
というか、慣れない肉体労働が祟って思いっきり倒れこんでしまった。
疲れた。
バビ疲れた。
モームリ、マジで動けん。
死んでしまう。
こうなったら、リナリアか、ほかのメイドさんを呼んで………
「………いや、ナシだ」
そうしてしまえば、確かに事態は一発で解決するだろう。
だが、その後どうなる?
決まってる。
驚異的な情報伝達速度を誇るメイドさんネットワークに情報が流出し、向こう2日は生暖かい目で見られるのだ!!
そんな辱めに遭うくらいなら私は潔く自決する!!
「あら可愛い」みたいなリアクションされるとつらいんだよ!!
中身男だから!!
大きく肩で息をして、思いっきり脚立に体をぶつけ。
「ふみぃいいい!!!」
動け動け動け動け動け!!
こんだけ私が頑張ってるんだぞ!?
ちょっとくらい空気を読んで動くくらいしろよ!サービス悪いぞ!!
「ぬぬぬぬぬぬぬ!!!」
だいたいっ、なんで私がこんな責め苦を受けにゃならんのだ!!
私っ、これでも良家の令嬢ぞ!?汗水たらしての肉体労働から、いっちゃん遠い地位にいる人間ぞ!?
ああっ、もうっ、腹立ってきた!!
「動けこのポンコツが!!うごけってんだよっていったぁああいい!?!?」
全力のローキック!!んでもって右足小指に走る激痛!!
生まれて初めてレベルのソレに悶絶し。
「くっそこの木材風情が!バカ!アホ!!マヌケ!トーヘンボク!トンチンカン!役立たず!!動け!!私は動けって言ったの!わかる!?動けって言ってんでしょうが!!!」
怒りに任せて物言わぬ木材相手に罵倒しつつ、全力でビンタをかます。
荒くなった息を吐いて、ようやく少し落ち着いた。
………流石に、これ以上は無理だろう。
諦めて、リナリアに助けてもら。
────ガッタン!!
「………は?」
大きな音を立てて、木製の脚立が、まるで見えない巨人の手に押されでもしたみたいにスライドした。
明らかな、あからさまな異常事態に、だが私の心臓が大きく高鳴る。
馬鹿なことだと、無意味な妄想だとわかっていても、体が勝手に動いた。
おずおずと、手を掲げ。
「【元の場所に戻って】」
再びガタンと音を鳴らして、脚立が1人でに動く。
冗談のような、奇跡のような、あるいはコックリの類にでも化かされたような、そんな感覚。
だがしかし、目の前のこれは、紛れもなく現実で。
「………もしかして、劣等髪って、魔法が使えないわけじゃないの?」
しんと静まり返った大書庫の中で、返事は帰ってこなかった。
次回予告
を書こうと思ったけど何も浮かばなかったので設定1つ。
ジュジュのCVは悠木碧さんイメージです。
どこぞの幼女の皮を被った悪魔とか蜘蛛子さんですね。