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第16話 突撃お前が晩御飯!!~おいでよ悪夢の森編~



「どうして………どうして………」

「おねえちゃん、大丈夫?」

「ジュジュねぇ、お腹痛いの?」

「アヤメ、シオン。ありがとうね、心配してくれて………。あと、私の事はお兄ちゃんと呼ぶように」

「おかのした」

「あいあいさー」


 ふへっ、へへ、へへへへ。


 ドーモ、皆サン。ジュジュちゃんです。


 人付き合いを避けるために辺獄(リンボ)めいたクソ魔境に移住したら見事人間とエンカウントしたジュジュちゃんです。



 クソがぁっ、ふざけてんじゃねぇぞぉっ!!


 なんでェ!?なんでこうなった!?私何か悪い事したか!?


 ………いや、悪い事はしたか。


「というかお嬢様、あの人たちが来て、実際何か問題ってありました?」

「………そう言われれば特に問題ないんだよね」

「うおっ………急に冷静になるのやめてくださいよ。ほんと心臓に悪いので」

「ごめんごめん」


 プンスコ怒るリナに少し癒されつつ、思考を巡らせる。


 ─────屋敷に押し掛けてきた政府軍斥候部隊の部隊長、アンナリーゼさんは、結構………というか、なかなかな聖人だった。

 相当な腕利きらしく、【悪夢】のマッピングを任されてこの森に入り、私たちのハウスを発見。

 『こんなヤベー魔境にお屋敷とか正気じゃねぇ!!絶対なんかあるって!!!』と突撃した結果、少女と幼女と幼女とメイドがいたわけだ。

 当然のようにしてアンナリーゼさんに「保護ッ!!」されかけたが、私たちの事情─────政争に敗れて追いやられた─────をある程度ぼかして話し、屋敷の一部を拠点として提供する事を対価に口封じに成功。

 そのまま一週間が経過したわけだが………


「シオンとアヤメも普通に懐いてるし、私が実験できないこと以外に問題はないんだよね」


 というかぶっちゃけ、この世界で劣等髪相手に普通に接してる辺り、いい意味で異常者と言うか、ぶっ飛んでる側の人間だろうし。


「部隊名が【再殺隊リエクスキューショナー】でさえなかったらなァ………」

「お嬢様。ずっと仰ってますが、何か問題でもあったのですか?」

「いや、なんというか、こう、うん、ね?」

「何もわからないのですが」


 軍令違反者をブチ込んで()()()()()()()()()するための部隊とはいえ、再殺部隊はねぇだろ、流石によォ。

 というか、政府軍の中枢に転生者がいるんじゃないだろうな?

 ソドムだのゴモラだのゴルゴダだの再殺部隊だの、ひっでぇネーミングセンスだが、それにしても再殺部隊は………。

 ………つーか、どっちかってたら私、再殺される側じゃん。

 抜けかけた気合を、ほっぺ叩いて入れ直して、


「あ~もう、やめだ、やめ。考えたってロクでもねぇ」

「はぁ………」

「ろき?」

「ろっけんろーる?」

「うん、何でそうなるかな?」

「やー」

「きゃー」


 ちっちゃな手足をパタパタさせる2人を担いで、部屋を出た。









「あらよっ、とぉ!!」


 クソ長い手足をワシャワシャさせるムカデを仕留め、返す一撃で六つ目のイノシシを撲殺。

 長柄斧【錆丸】を振り回し、叩き付け、切り裂き、突き込み、打ち据え、或いは銃殺していく。

 懐に忍ばせたククリナイフを投擲してトラを始末し、


「ボンっ!!ってね?」


 【呪々胎符】を消費して作り出した赤い泡がふよふよと宙を漂い、無警戒に突っ込んできたオオトカゲが骨格から体組織を剥離されて絶命する。

 《紅蓮紅泡(クリムゾンバブル)》………パパの《炸裂する泡球(バブルラプソディ)》を真似した、半自動型攻撃魔法。

 本家の威力には遠く及ばないが、それでも、この森のヤベー魔獣どもをぶち殺すくらいは出来る。

 ………まぁそれでも、今の私とパパがガチバトルすれば、百億パーセント私が負けるのだが。


 パパの本領は、膨大な魔力に任せた半自律型攻撃魔法と圧倒的フィジカルから繰り出されるガン攻めスタイルだった。

 遠距離、中距離、近接、どれも隙がなかったし、防御は基本ママに任せていたとはいえ、出来ないわけじゃなかったし、弱いはずがない。

 ………あぁ、そうだ、私のパパは、強かったんだ。

 私みたいな出来損ないの無能の、何倍も、何十倍も。


「………いや、今はやめよう」


 モスラめいた怪物をすれ違いざまに斬り



「っ、あっぶねぇっ!?」


 咄嗟に退き、玉虫色の泡に巻き込まれたモスラと錆丸の切っ先が、一瞬で赤錆びて腐り果てる。

 振り向いて、ギチギチと威嚇するような音を鳴らす、見上げるような大蟹がいた。

 叩きつけられた鋏を躱し、反撃に撃ち込んだマシンガンがまるで通じない。

 あ~………これは少し、マズいかもしれん。


「逃げるか………?」


 いや、でも、蟹………蟹………そろそろ鍋が美味しい時期………。

 ううん………。


「………よし、やるか」


 懐から鉈を引き抜き、腰だめに構える。

 ファイティングポーズをとる大蟹と真正面から相対し、飛び掛かった。










「ふぅ………旨かった」



 蟹鍋………素晴らしきかな、蟹鍋。

 肉厚かつ濃厚な蟹肉と人食い白菜(パックンフラワーみたいに自生してた)、そして何故かカンフーめいたカラテ・ジツを使う人型のキノコに、弾丸めいた勢いで飛んでくる木になるニンジンというゲテモノぞろいのメニューだったが、コレが何故かサイコーに旨かった。

 これで白米さえあれば完璧だったのだが………現実は非情である。


 クソがぁっ、なんでコメ無いの!?

 食わせろよ、コメ、食わせろよ!!!

 カニ雑炊喰いたかったんだよぉ!!!!


「うぅ………カニチャーハンも食べたかったのにぃ………」

「ジュジュ、どうかしたのか?」

「何でもないです、アンナリーゼさん」


 綺麗な緑色の髪の人………アンナリーゼさんが、体を洗っていた私の隣に腰かけて頭からお湯を被った。


「しかし………すごいな、ここは。華美さこそないが、ここまで過ごしやすい家は初めてだ」

「そうでしょう、そうでしょう」


 こだわって作ったからな、この家。

 それはもう、すっごい頑張って作ったからな。

 ………無駄にお風呂を男湯と女湯に分けたり、たいして使いもしないのにちょっとした図書室を建てたりはしたが、後悔はしていない。

 していないったらしていない。


「こんな地獄のような場所に屋敷を建てるとなると、並大抵の苦労じゃなかっただろう?」

「あ~………確かに、屋敷云々よりも魔獣対策の方が大変でしたね」


 この森の魔獣ども、基本的にクッソタフだし。

 私が持てる限界ギリギリの重機関銃の弾をしこたまぶち込んで漸くとか、ホントどうなってんだ?

 ………まぁ、連中の急所もだいたい把握できて来たし、大体の連中は致命的な部位に大火力をブチ込めば殺せるが、それでも節足動物系の連中は割と耐えてくるし、嫌になる。

 生物としての限界なのか、しっかり焼いてやれば死んでくれるし、そうでなくても動けなくなる事が多いが、個体によっては消し炭になりながら襲ってくるからマジで油断できない。

 というかぶっちゃけ、私が戦えてるのも《怪力の巨神(カブラガン)》ありきだし、【呪々胎符(ジュジュバッテリー)】切れる前に逃げなきゃ普通に死ぬし。


「どうしても大型の火器で速攻殺すしかないので、そこは少しだけしんどいです」

「普通なら、一個小隊で当たるような相手ばかりなのだがな………。何度も聞くが、本当にこんな場所で暮らすつもりなのか?人里離れた場所でクラスにしても、もっと良い所が」

「ま、そこは私ですから」


 呆れたような眼を向けてくるアンナリーゼさんに、つるぺったんの胸を張り、



「それに、しばらくは人と関わりたくないので」

「………そうか」



 どこか憐れむような眼を務めて無視して、笑い返した。





ちょびっと魔物解説


ナイトメアデスタラバ

命名・ジュジュ

悪夢に生息する陸棲の巨大蟹。

基本的な個体の体高は3メートルほどだが、甲殻類の例に漏れず、栄養状態によっては、脱皮を繰り返す事でほぼ際限なく成長するため、3階建てのビル並みの巨体になる事も。

腐肉や小型の魔獣、植物など、基本的に何でも食べる雑食性。

強靭な甲殻は魔術にも耐性を持ち、アルスシールの銃火器すら弾く。

他の地域なら一帯のヌシを張れるほどの強力な魔獣だが、残念ながら、悪夢の森では中堅どころで、よく、他の魔獣のおやつにされている。

濃厚な旨味と抜群の歯ごたえの蟹肉は、美食に慣れた貴族であっても思わず唸るほどの逸品であるが、最大の旨味は卵である。

プチプチとした歯応えと豊かな風味が特徴の卵は酒蒸しにすると絶品であり、僅か数週間の産卵期にしか味わえない希少な食材。

逆に、食性のせいか蟹味噌はえぐみが強く、食用には向かない。

甲羅も鍋の素材として有用で、全体的に捨てるところのない本種ではあるが、生食すると寄生虫病で普通に死ぬので要注意。

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