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第9話:いつだって破綻は突然やってくる

注意:ここから数話は、ちょっとした鬱展開(?)になっています。

汚い表現やらがたくさん出てくるのでいい子のみんなはカムバックしようね。



「ふぃ~………」

「ジュジュ、楽しかったか?」

「うん!!」

「そうか、それならよかった」



 つつがなく旅行が終わって、ネブカドネザルからゴルゴダへの帰りの馬車。


 尋ねてきたパパンにそう返して、ワシャワシャと頭を撫でられた。


「この子が生まれたらしばらくは動けなくなるでしょうし、それでなくても、最近は革命軍の動きがきな臭いから、今くらいしかタイミングがなかったのよね………あと、上層部からパパに休暇が下りたのもあるけど」

「さすがのあいつらも、『子供が生まれるから、その前に家族で旅行に行きたい』と言われて蹴るほど鬼畜じゃなかったという事だろう。………まぁ、その判断力を、もう少し作戦立案にも生かしてほしいところではあるがな」

「まったくです。戦場で人の生き死にを数字で考えるなとは言いませんが、せめてもう少しうまくやってほしいものです」

「ま、あいつらに色々期待する方がバカな話だな」

「それもそうですね」

「ですね」


 だいぶ大きくなってきたお腹を撫でながらママンがそう呟いて、何故か始まる愚痴大会。


 ………上層部さん、ずいぶんと嫌われてるんだな。


 いや、まぁ、200年以上紛争を収めきれてないんだから、政府軍も革命軍もどっちもどっちというかどんぐりの背比べな感じではあるんだけれども、それにしたって、規模で勝るはずの政府軍が鎮圧できてないってのは、なんというか、うん、無能臭いな。


 あるいは革命軍側にチェゲバラとかホーチミンみてーな超絶有能な英雄様がいるのかもしれないが、その革命軍にしても、最近、私の中で、なかなかにクソな疑惑が出てきた。


 連中の声明文やらを漁ってみたのだが、どうやら連中、革命自体が目的らしいのである。


 本来であるならば、革命、それも武力による革命なんてものは、最終手段も最終手段だ。


 問題があって、政府との対話が成り立たず、交渉の余地がない状況ならばまだしも、連中は、肝心要の革命を起こす動機をはっきりさせていない。


 ………たぶんだけど、200年続いた戦争のせいで、最初は目的があって革命やってたのが、いつのまにか革命自体が目的になっちゃったんじゃなかろうか。

 目的と手段が倒錯した組織など、元来、上手くいくはずもない。


 某最強の吸血鬼の旦那が100万発入りのコスモガン構えて大暴れする漫画に出てくるウォーモンガーの少佐殿ならともかく、戦争など、どのような場合においても目的ではなく手段なのだから。


 兵士を鍛えるには金が要る。

 兵器を揃えるには金が要る。

 糧秣の用意には金が要る。

 その運送にも金が要る。

 兵士が死ねば慰安金がかかる。


 その他諸々、政治にかかわる人間からすれば頭痛と胃潰瘍と幼児退行を同時に引き起こしかねないレベルで金と人を食うのが、戦争という怪物だ。


 それでも戦争を起こすのは、戦争によって発生するデメリットを戦争によるメリットが上回る場合であって、それは自国の防衛であったり他国の征服であったり他民族への侵略であったり別大陸への植民だったりするが、それがあくまでも『手段』であるという事実には変わりない。


 そんなものを『目的』にしてしまった革命軍が、仮に革命に成功したとして、この国の未来は暗いだろう。


 ………まったく、因業な国に生まれてしまったものだ。


 いったい私が何をしたっていうんだ。


 ………いや、まぁ、何もしなかったせいというか、自業自得ですね、はい。



「そうだ、リナ。おうちまであとどれぐらいなの?」

「今進んでる森を抜けた先のゴモラの街で一泊してから、ゴルゴダの街に戻る予定です」

「わーお」


 思ってたよりも遠かったのだ。

 ………というか、相変わらず街の名前の癖が強いな。

 なんだよゴモラって、大乱交ドスケベブラザーズの咎でソドムと一緒に焼かれそうな名前じゃねーか。

 そんなくだらない事を考えながら、ふと、窓の外を眺め。



(………あれ?)



 森の奥、木々の合間で、何かが確かにキラリと光った。


 明らかに自然の物ではないソレに、僅かに興味を惹かれ。






 ──────パン、パン、と乾いた音が2回。




 1つが私のこめかみのあたりで、もう1つが、どこか遠くで鳴って。



 灼熱感と激痛に歪む私の視界に、血の滲む上着を押さえて崩れ落ちる、パパの姿が映った。





















「パパ!?」

「《怪風滅旋域(テンペスト)》」

「《殺人怪魚群(マーダーズ)》!!」

「お嬢様っ、伏せてください!!」


 どんっ、と重い衝撃に突き飛ばされて床に倒れこみ、私のすぐ頭上で、ピュンピュンと嫌な音が鳴る。

 口からどす黒い血の塊を吐き出したパパが周囲にサメを象った無数の水塊を放ち、馬車を囲むように風の結界が展開される。

 グワングワン揺れる視界と吐き気を無視して。



「待っててパパ!いま、魔法で治」




 轟音と、衝撃波。



 全身をバラバラに引き裂かれるような激痛に、意識が明滅する。


 痙攣する肺腑から、無理矢理、呼気を絞り出し。



「やったか!?」

「バカ言うんじゃねぇ、相手はあの【英雄】様だぞ!確実に仕留めるまで気を抜くんじゃ」

「《熱殺泡球(シャボンボム)》」


 サブマシンガン構えてあたりを警戒していた薄汚いツラの男が、至近距離で炸裂したシャボン玉に頭を吹き飛ばされて倒れこむ。

 急な惨状に、周囲が、にわかに騒めき立ち。



「ジュジュ!こっちだ!!」


 太い腕に首根っこを引っ掴まれて、そのまま木蔭に引っ張り込まれた。


 あまりに強い力に、地面に倒れこみ。



「………って、パパ!?ママ!?」



 傷だらけ血塗れのパパとママが、木の根元にしゃがんで隠れていた。


 思わず駆け寄ろうとして、なにか、ぐにっとしたものを踏んづけてしまった。


 下を見る。


 血塗れ泥塗れのリナが倒れてた。


 うん、リナが。


「リナぁ!?」

「いたいです、おじょうさま」

「あっ、ゴメン。………じゃなくて!」

「ジュジュ。あまり大きな声を出すな。《水精霊の隠し籠(クレイドル)》を使ってはいるが、相手が多い。やり過ぎればバレるぞ」

「あっ、ごめんなさい………」



 パパのセリフに辺りを見渡して、周囲の景色がうっすらと歪んでいた。

 ………隠密用の結界か、やはりというか、器用だな、パパ。


「………それで、ジュジュ。お前、目は大丈夫なのか?」

「あっ、うん。血が入っただけだから、問題ない」

「…………そう、か。それは、なによりだ」

「………パパ?」



 心配そうな顔のパパにそう答えて、何故か、本当に何故か、少し困ったように唇の端を歪めて、パパが笑った。


 嫌な、予感がする。


 ()()()()()()、致命的なナニカが起きる、そんな予感が。


 荒くなる息を、意志力で、押さえつけて。




「ジュジュ、お前は逃げなさい」























「パパ!?何を言って」

「良いから黙って聞きなさい。………今回のこの襲撃は、間違いなく、パパとママを狙って周到に用意されたものだ。平常時ならまだしも、今のこの状況で、お前を守ってやる余裕はない。今からパパが奴らの注意を引くから、全力で、街の方へ逃げて、デッカードという医者を頼れ。彼には貸しがある、きっと、お前を助けてくれるはずだ」

「そんなっ、それじゃ、パパとママが」

「私たちは大丈夫だ。この程度の死線なら、何度も潜り抜けてきた。………だから、ジュジュ、お前は、自分の事だけを考えろ」



 淡々と、嫌に冷静に話すパパに反論しようとして、深い青色の目に見据えられた。

 いつになく真剣な、有無を言わせないソレに、身が竦む。

 煮え立った脳味噌を、必死に回し。



「………パパ、私は、足手纏いかな」

「ああ」


 そう尋ねて、確かな意志力を宿した眼が、私を射抜いた。

 震える体を、無理矢理押さえつけて。



「………リナは、どうするの?」

「私はお嬢様と逆方向に奴らを引き付けて各個撃破します。………お嬢様、今この場で、一番弱っちいのは、間違いなくお嬢様です。というかぶっちゃけ邪魔なのでケツ捲くって逃げてください。ほら早く、ハリーハリー、時間は有限なんですよ、お嬢様」

「………リナリナ、お屋敷に帰ったら、お仕置きだから」

「リナリアです、それと、私、初めてなので、優しくしてくださいね、お嬢様?」

「何言ってんの?」

「あだっ」


 馬鹿なこと言ったリナを小突いて、ずれていた靴の踵を直す。


 大きく息を吸って、吐いて。



「………ジュジュ。これが終わったら、イリノイのビーチにバカンスに行こう。パパの旧友が、あそこに別荘を持っていてな。パパがママにプロポーズしたのも、あのビーチだったんだ」

「………わかった。約束、だからね」

「ああ、約束だ。………さぁ、もう時間だ。準備はいいな?」

「うん」

「良い子だ。………《水鎖裂断刃ウォーターチェーンソー》!!!」



 ニコリと笑ったパパが掲げた右手を勢い良く薙ぎ払い、高圧で流れる無数の流水の鞭が、周囲を無差別に切り刻んだ。


 悲鳴と銃声、爆音が鳴り響く中、《怪力の巨神(カブラガン)》を発動して。



「逃げろっ、ジュジュ!!」



 迷う暇も、謝る時間も、ありはしなかった。



 あたりを満たす怒声と罵声を背に受けて、一心不乱に走る。


 肺が痛い。


 脇腹が攀じれそうになる。


 歯の根が、ズキズキと痛む。


 鬱蒼と立ち込める木々の中を、掻き分けて、走り抜ける。


 木の枝に引っかかって頬が裂け、熱い物が流れ落ちる。


 途中、誰かに髪を掴まれた気がするが、それすらも、現実なのか白昼夢なのか定かではなかった。



 グルグルと、無間地獄のように回り続ける視界の中を、私はただ、走り続けた。





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