見知らぬ女に逆レ◯プされたと思ったら彼女だった
一時間、暇つぶしで書きました。
暇つぶしにどうぞ。
───思えばやはり、近道をするために路地裏を通ったのが間違いだった。
いくら急いでいても、
この治安が悪いで有名なXX町で路地裏を使うなんて普通なら有り得ない。
今にして本当に後悔している。
どうしてこんな馬鹿な事をしてしまったんだろうか、と。
「……っぁ」
「っ」
単刀直入に言おう。
路地裏に入ったぼく『古川渚』は、何者かに後ろから押し倒され、そのまま衣服(主にパンツとかズボンとかパンツとか)を脱がされてしまった。
倒れる際に振り返ったので、仰向けの状態だ。
そこで驚いたのは、相手がおそらく女であること。
「捕まえた」
「……」
マスクとサングラスに、黒のフードを被っているので詳しくは分からない。けれども声質からして女の子で間違い無いだろう。
勘違いしてほしくないのだが、僕はいたって普通の男だ。男の子だ。
見知らぬ女の子に倒されてしまったのは──僕が非力系男子であるから、それだけである。
やはり筋トレはしておくべきだったか。
つーか、
それどころじゃねぇ。
「あ、あの。そこ退いてもらえますか」
「やだ」
「え?」
うまく聞こえなかった。
それとも自分の耳が現実逃避を要求しているのか。
どちらでも良かった。あまり変わらない。
「──む、むむ」
「無理無理。力弱い男子じゃ私を突き飛ばすなんてムリだよ〜」
なんとか状況を打開しようと試みる。
「……む!」
「無理だってえ」
にしてもコイツ、変な声してやがるよな。変に声を作ってるつーか……。
「はあ。じゃあ諦めます」
「潔いね?」
「何の用ですか。残念ながら僕はいま一文なしですよ、お小遣いは全部募金しちゃったから」
これは本当だ。
ただし、愛しの彼女に対して──だけどね。
「ふーん、良い人なんだね」
「どうも。良い人です」
それに対して、
「貴方はずいぶんと悪い人みたいだ」
「ありがと。自覚してる」
「最悪だね」
「最悪って最高だよね」
意味がわからない。
コイツは彼女みたいな事を言いやがる。
「ごほん」
「?」
「質問に答えて欲しいのですが。何の用?」
「……決まってるでしょ」
何の用。
その質問に、女は端的に答えた。
「分からないな」
仮にも僕は襲われている状況に今あっている。
だが襲われる様な恨みは買った覚えないし、息子を出させて羞恥させられる様に狙われた覚えもない。
コッチからしたら、本当に。
全然決まってはいないのだ。
「僕は襲われる理由なんてない」
「襲われる理由なんて、小動物みたいで可愛くて一目惚れしたから、それだけで十分でしょ?」
「僕の彼女みたいな暴論でまことに結構。にしても納得出来ないな」
「なんで?」
「……アイツに怒られたくないから。それだけで十分だろ?」
アイツとは彼女のことである。
「あは」
「そーいうわけで、退いてほしい」
「無理だね」
「なら無理やり起き上がるだけだよ」
「やってみてよ」
「ん!」
勢いよく手を振りあげ、女の手を取る───そこから腕を捻り痛ませ、その間に脱出する!
「動き遅すぎじゃない?」
……という妄想。
たとえ鋭い作戦を考えられたとて、実行できなきゃ意味なんてないのだ。
悲しきかな、これこそが現実。
「コレでも50m走は20秒台だ」
どうだ。
最高だろ?
「え、冗談でしょ」
「冗談じゃない」
「信じられない! ……運動神経悪いのは知ってたけど、まさかそんなに!?」
なんだ。
なんでこの女は僕が運動音痴なのを知っているんだ?
訳がわからない。
「…………やっぱり訂正。嘘だよ」
実際は本当なのだが、心底馬鹿にされたような気がするしやっぱりね。古川渚はプライドって物を大切にしてるタイプの少年なのだ。
「な、なんだ。やっぱり嘘かあ〜」
冗談だと発覚して何故か安堵の息をつく彼女───今だ。
「せめて僕を襲うなら、素顔を見せる覚悟ぐらいしとけ!」
「え?」
今までの人生の最高速を記録する。
僕の手は女の黒フードとサングラスにかかる。そのまま手を振りかぶった。
引っかかっていたサングラスは外れて宙を舞い、黒フードから素顔が見え───、
───え?
「あ、あれぇ〜ば、バレちゃった」
「…………は?」
そこには見知ってる、見慣れすぎた顔があって、
「どういうこと??? 赤沢ちゃん、何してんだよ」
赤沢響。
動揺してから困惑する以外に選択肢はなかった。黒フード女の正体はまさかの彼女だったのである。
彼女自慢のピンクのツインテールが翻る。
これには僕も大びっくり。
「あ、あのですねぇ」
声はさっきとは違って、いつもの。
まさか本当に声を作っていやがったのか───どおりで違和感があった。
「今日ってなんの日か分かります?」
「僕の処女性が失われた日、かな」
「えっ、渚くんは男の子でしょ!」
「女の子じゃないってなんで思ったの?」
「えっ、え??」
僕の冗談に本気で困惑する馬鹿。
だから可愛いのだが。
今回の行為は到底可愛いじゃ許されねー話だ。
「今の時代の流行りってのは、男の娘らしいぜ」
「ま、まぁ……確かに渚くんは忠誠的だけど、私に」
「っ」
まさかのカウンター。
中性──否、忠誠。
赤沢の言葉の端々から、上下関係が垣間見えた様な気がした。
否、ガッツリ見えたよな。
「ごほん。そんな冗談はともかく、なに??」
一体なんの日なのさ。
「それはそう、結婚記念日なのです。私と貴方の」
「まだ結婚してねえよ」
「えーっとね、はは、今日はなんと私の誕生日なんです!」
「ぁあ」
まあ知ってたけど。
だからってコレは許せねー。
「つまりどういうこと?」
「この鈍感、バカ」
「え?」
ちょっと待ってくれ。
ラブコメの鈍感系主人公がヒロインから罵倒される時でも──もうちょっとヒントがあってから、されるもんなんだぜ。
今のはなんだ。
言うのならば、通り魔みたいだった。
ヒントもなしに罵倒してくる。
……あれ、これってただの罵倒じゃね?
「つまり私が君のことを好き勝手して良いってこと」
「どういうことだよ」
どういう論理なのか、まるで分からん。
「というか重いんで退いてもらえます」
「は? 私の愛が重いって言った?」
「いやいや滅相もない、もっと重くして欲しいぐらいです」
「分かった」
すると彼女は僕の上から退いて、ゆっくりと立ち上がった。
「やっぱ優しいよな赤沢って。高校の時はもっとやんちゃだったつーか」
やべー奴だったつーか。
いや、今も十分に破茶滅茶にヤバいけど。
「そーいうことだよね!」
「……?」
「そんなわけで、行こっか」
「はい?」
ズボンを履き直し、ひと段落ついたところで。
彼女はポツリとそう呟いた。
なに。
行こっか?
どこに?
地獄に?
「行こっかって、どこにさ。僕はもう疲れたよ……」
「そんなん決まってるじゃん」
僕の手を取って無理やり引っ張りながら、赤沢は笑った。
「ホテルだよ」
「……は?」
まあ、そんなわけで、ハッピーエンド。
で、結婚した。
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作者の力作である学園頭脳戦がテーマの『このフザけた世界で生き残る』(完結済み)もお願いします!
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